酒乱の相手は難しい。
いや酒乱に限ったことではなく、とにもかくにも興奮状態に陥ってしまった人間相手には、まともな会話などは成り立ち得ないものである。
過去の経験上、そのように悟っていたラッキーボーイは、じっと相手の興奮が収まるのを待っていた。
「オレは・・・別にアンタを追っかけてたわけじゃない・・・」
譫言のように、酔眼を据わらせたタコオヤジの「告白」が、今まさに始まろうとしていた。
「そう・・・オレのお目当は、彼女だった・・・」
「オイオイ・・・当時のオレに美人の背後霊が着いてたなんてオチは、許容できねーな。
これでも、そんなに鈍感ではないつもりだ。
そんな「幽霊」やら「幻」やらの世迷言で、お茶を濁されては堪らん」
「だから・・・さ・・・」
タコオヤジは、気色悪い上目遣いでちらりとこちらを見ると
「うをっほん!」
と、勿体ぶった咳払いをしてから、タバコに火を点けて紫煙を盛大に吐き出した。
「れっきとした生身の、しかもこの上もなく極上な女さ・・・」
あの「世の不幸を一身に背負ったような」不景気の見本のようなタコオヤジの口から吐き出された「この上もなく極上な女」に、寸でのところで吹き出しそうになるのを堪えたラッキーボーイは、これまたタバコに火を点けて応じるポーズを取って見せる。
「それで?
その与太話が、あのストーキングとどう関係すると?」
「それは・・・つまり・・・だな・・・
つまりは、彼女自身が、ストーカーだったのさ・・・アンタのな」
と吐き捨てると、タコオヤジはさも不愉快そうに立て続けに、紫煙を盛大に吹き出した。
「くだらねーな!
要するに、アンタは「ストーカーのストーカー」だったと・・・つまり、オレは二重にストーキングされてたって?」
タコオヤジは、何も言わずにタバコを蒸かし続ける。
不気味以外のなにものでもないが、恐らく彼なりの照れ隠しだったのだろう。
「実にくだらん!
自分の罪を免れようと、そんな架空の美女とやらを捻り出してくるとは、アンタもガラに似合わず芸が細かいじゃねーか?」
自分の罪を免れようと、そんな架空の美女とやらを捻り出してくるとは、アンタもガラに似合わず芸が細かいじゃねーか?」
最早、タコオヤジの表情や挙動から、彼が真実を語っていることは明らかだったが、敢えて挑発してみると
「いや・・・だから、こっちは、そんなガラじゃない・・・事実を言っているだけさ・・・」
「・・・」
照れ隠しのように、盛んに紫煙を吹き出しているタコオヤジの姿は、まったく「自白者」の姿そのものだった・・・
「ところでアンタはなぜ、東京に出て来たのかな?
さては、地元でストーカー行為がばれて、止むに止まれず逃げて来たとか?」
「!!!」
酔った口からのデタラメだったが案外に図星だったらしく、酔いが一気に引いたように真っ青になったタコオヤジは、ガタガタと震えだした。
「あれは・・・
あれは・・・違うんだ・・・!」
そう叫ぶと、タコオヤジは頭を抱えた。
タコオヤジの突然の叫びに、周囲の客が驚いてこちらを見る。
「まあ・・・大きな声を出しなさんな・・・他の客の注意を惹く・・・別に事を荒立てようという気はない」
タコオヤジは項垂れて、今度は泣いているようだった。
酒乱特有の、感情の起伏がコントロールできないような、あの危険な状態に入ってしまったらしい ( -ω-)y─┛~~~~
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