文殊菩薩は「三人寄れば文殊の知恵」といわれるように、智慧の菩薩です。
それに対して普賢菩薩は慈悲の菩薩で、共にお釈迦さまの脇侍です。
文殊菩薩とは
文殊菩薩とは、どんな菩薩なのでしょうか?
まずは簡単に仏教の辞典を確認してみましょう。
文殊菩薩
<文殊>はサンスクリット語 Mañjuśrīの音写<文殊師利(もんじゅしり)>の略で、<曼殊尸利(まんじゅしり)>などとも音写する。原語の訳は<妙吉祥(みょうきちじょう)><妙徳(みょうとく)>など。
初期の大乗経典、とくに般若経典においては、むしろ仏に代わるほどにさかんに活躍し、般若=智慧を完全にそなえて、説法をおこなう。そのほか各種の大乗経典でも、諸菩薩を主導する例が多い。
空に立脚するその智慧が文殊菩薩の特性であり、これから<文殊の智慧>の語が由来する。観世音菩薩などとは異なり、純粋に仏教内部から誕生した菩薩である。
なお、中国東北部の旧称の満州は、この菩薩名にちなむといわれる。また毎年7月8日には、特に文殊菩薩を供養する<文殊会え>が催される。
(引用:『岩波仏教辞典』第三版)
このように文殊菩薩は、文殊師利(もんじゅしり)が本名です。文殊師利法王子などともいわれ、特に『般若経』では文殊菩薩を相手に説かれる場合がたくさんあります。それというのも、文殊菩薩は非常に智慧がすぐれているからです。
このように、仏教辞典には文殊菩薩について簡単に説明されているので、この記事では分かりやすく詳しく解説していきます。
まず、「三人寄れば文殊の知恵」というのは、どういう意味でしょうか。
三人寄れば文殊の知恵の意味
文殊菩薩は、智慧の菩薩といわれます。智慧というのは、単に知識があるとか、理解が深いという意味ではありません。智慧は、仏教では非常にすばらしい力を表します。
➾智慧とは?
文殊菩薩は智慧の菩薩ですので、「三人寄れば文殊の知恵」ということわざになっています。
「三人寄れば文殊の知恵」といえば、あまり頭が良くなくても3人も集まれば文殊菩薩のようなすぐれた知恵が出るものだ、という意味だと思ってはいないでしょうか。国語辞書などではそういうこともよく言われますので、ほとんどの場合そのように使われています。つまり、1つの知恵が3つ集まって3倍になる、という考え方です。ですが、3人集まるといい知恵が出るというのは、実際には別の要素があります。
1人の知恵だと、偏りが生まれます。もし独りよがりで間違っていても、気づかないのでひどい結果になりかねません。誰かに尋ねてみるのは大切なことです。
ところが2人の知恵になると、対立してまとまらない可能性が出てきます。また2人だけなら、共謀して悪いことをすることもあります。
それが3人になると、お互いに牽制し合って割合バランスのいいアイディアが出てくる、ということです。ですから、3人集まると単なる知恵の和ではなくて、よりよい相乗効果が生まれます。それを「三人寄れば文殊の知恵」といわれるのです。
文殊菩薩を説かれるお経
文殊菩薩は、どんなお経に説かれているのでしょうか?
それは以下をはじめとする、たくさんのお経に説かれています。
『大無量寿経』
『観無量寿経』
『阿弥陀経』
『法華経』
『華厳経』
などの有名なお経はもちろん
『央掘魔羅経』
『心地観経』
『雑譬喩経』
『涅槃経』
『大集経』
『道行般若経』
『内蔵百宝経』
『阿闍世王経』
『文殊師利問菩薩署経』
『首楞厳三昧経』
『維摩経』
『宝積三昧文殊師利菩薩問法身経』
『慧印三昧経』
『魔逆経』
『須真天子経』
など
その他、たくさんのお経に説かれています。
文殊菩薩はどんな人、実在した?
文殊菩薩は、どんな人だったのでしょうか。
まず、「菩薩」とは、「菩提薩埵(ぼだいさった)」のことです。「菩提」というのは仏のさとり、「薩埵」は人なので、仏のさとりを求める人を菩薩といいます。まだ仏のさとりを開いていないので仏さまではありませんが、仏のさとりを目指して努力している人です。
➾仏(如来)と菩薩と神の違い
その菩薩の中でも、文殊菩薩は特にすぐれた菩薩です。文殊菩薩を文殊師利法王子ともいわれますが、「法王」とは仏のことです。二度と崩れることのない高い悟りを開いた菩薩を「法王子」といわれます。他の菩薩にも「法王子」はあるのですが、皆文殊菩薩にゆずって、文殊菩薩が文殊師利法王子といわれるのです。それほどの菩薩が文殊菩薩です。
『文殊師利般涅槃経(もんじゅしりはつねはんぎょう)』には、文殊菩薩は舎衛国(しゃえいこく)の多羅聚落のバラモンの子だと説かれています。非常に頭がよく、仙人の元を訪ねて出家の法を求めますが、文殊菩薩の先生になれるような人がなかったために、最後にお釈迦さまにめぐりあって出家したと教えられています。
『維摩経』では、維摩居士との問答が説かれていますし、『華厳経』では、お釈迦さまのあまりにすごいご説法に参詣者はみんな耳も聞こえず口も聞けないような状態になりましたが、文殊菩薩と普賢菩薩だけは分かっている様子だったと教えられています。
ですから、文殊菩薩は「三人寄れば文殊の知恵」といわれるように、非常に智慧のすぐれた人で、お釈迦さまの時代に実在した人です。
文殊菩薩の功徳やご利益は知恵の増加?
文殊菩薩は、多くの寺院で祀られています。一体、どんな功徳やご利益があるとされているのでしょうか。
『文殊師利般涅槃経』によれば、文殊菩薩は貧しく孤独で苦しんでいる人の姿で、行者の前に現れると説かれています。それによって泰善(たいぜん)(758-827)は、貧しい人に施しをすることが文殊菩薩の供養になると考えて、貧しい人に施しをする文殊会(もんじゅえ)を始めました。そして泰善は、太政官に国で文殊会を行って欲しいと申請し、泰善の死後828年から行われるようになりました。こうして、苦しむ人を救うための文殊会が公式につとめられるようになったのでした。
ところが、それがだんだんと変化していきます。
室町時代から江戸時代になると、授福増慧を願って文殊菩薩に奉納された絵馬がたくさん発見されています。幸せを願い、智慧が増えることを願っていたということです。
こうして文殊の知恵といわれることから、頭が良くなる功徳があると考え、今では学業成就、つまり入試の合格といったご利益を願うようになったのです。
ちなみに密教では、文殊菩薩に関連して、除疫延命など、災いをなくす息災法が行われます。
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