2019/04/16

ゼウスを魅了した人間の少女たち(ギリシャ神話52)



レダ
 一方また、ゼウスは「人間の少女」にもたくさん手を出しており、それには有名女性が多い。まず「レダ」だが、これはゼウスが「白鳥」の姿となって近づき、白鳥の姿のまま彼女を犯してしまったというものである。これは、近代の画家が多くの作品を書いていることで有名で、また星座の「白鳥座」でも知られている。

神話としても、まず「双子座の星」となる「ポリュデイケスとカストル」の物語、トロイ戦争の原因となる「絶世の美女ヘレネ」、生贄とされた娘の仇として夫アガメムノンを殺す「修羅の道を行く母クリュタイメストラ」の物語など、有名物語の発端となる。つまり、今挙げた四人がゼウスによってレダが生むことになる子ども達であった。ただし、彼女はこの時すでに「人妻」になっていて、四人のうち二人は人間の血を受け継いでおり、それが物語を彩っていくことになる。レダは、その後も夫とうまくやっていったようである。

エウロペ
 彼女も良く知られた女性で、アジアの地フェニキア地方(現在のレバノンあたり)に居た王女であった。彼女を見初めたゼウスが「牛」の姿で近づき、油断したエウロペが、その背中に乗ってしまったとたんに海へと泳ぎだし「クレタ島」へと連れていって彼女をものにした、という話は良く知られている。この時以来、アジアからクレタ方面地方が「エウロペの地=ヨーロッパ」と呼ぶことにされたとなり、こうして彼女は「ヨーロッパ」の名前の起源となった。

一方、彼女から生まれた子ども「ミノス」はクレタの支配者となり、その兄弟「ラダマンテュス」は死んで後、ミノスと共々「冥界の裁判官」となっていくという栄光の子ども達となる。この物語は、何を置いても「ヨーロッパ」という言葉の起源話になっていることで有名である。

ダナエ
 この「ダナエの物語」は「ゴルゴンのメドゥサ退治」のペルセウスの物語で有名となる。ダナエから生まれる子によって命を落とすことになるとの予言を受けた父のアルゴス王は、娘ダナエを幽閉してしまう。しかし、その美しさに心引かれたゼウスが「黄金の雨」となって屋根の隙間から彼女に降り注ぎ犯してしまい、その生まれた子どもが大英雄ペルセウスとなる。二人はその後、幾多の苦難にあうが、ダナエも息子ペルセウスに救われ、ようやく平安を得ていく。ところが、これが近世になってキリスト教の「聖母マリア伝説」と結びついて寓話的に絵画化されることにもなった。さらには「黄金の雨」が「金貨の雨」に変容されて、人間の「金貨願望」の心理描写に使われてたりしている。

アンティオペ
 彼女は、サテュロス(上半身は人間で下半身は山羊という山野の精)に変身して近づいたゼウスによって犯され、子どもを孕んだことで父の怒りを怖れて出奔シュキオンに逃れる。しかし、誤解した父は兄弟にシュキオンの王に対する復讐を依頼して自殺してしまい、兄弟はシュキオンを攻めてアンティオペを連れ戻そうとする。その途中、彼女は双子の子どもアムピオンとゼトスの兄弟を生むが、子ども達は捨てられてしまう。アンティオペは、その後虐待されたり狂気に落とされたり諸国を彷徨ったりの悲運に見舞われたりしたあげく、ようやく晩年に平安を得るが、どうもゼウスの犠牲者の中でもとりわけ「ついてない」女性であった。捨てられた子どもたちは、拾われてテバイの英雄となっていく。

セメレ
 彼女は数少ない「合意」の上でのゼウスの愛人と言える。しかし、それを嫉妬したヘラに騙され、ゼウスに本来の姿で来てくれるように頼んでしまい、神の誓いは覆すことができないため、ゼウスは「雷と稲妻」とともにやって来ざるを得ず、そのためセメレは死んでしまう。しかし、すでに孕まれていた子どもは助けられ、それが後の「神ディオニュソス」となる。ディオニュソスは「人間の女からの出自」のくせに、さまざまの遍歴の後にやがてオリュンポスの12神に並ぶ最高度の神になっていくという「特別な神」だが、その遍歴の途上で冥界へと赴き、母セメレを救出して天に昇り母を「神族の一員」にしていくという離れ業までやってのけている。

アルクメネ
 彼女はゼウスに目を付けられた時、すでに人妻であった。そのため、ゼウスは夫が出征中に夫の姿となって帰還したと見せかけて、彼女をベッドにつれていき抱いてしまう。こうして彼女はゼウスの子どもを孕むのだが、その子どもというのがギリシャの英雄の中でも、えり抜きの豪傑「ヘラクレス」となる。そういうわけで、長大なヘラクレス伝説が後に続くことになるのだが、彼女の方はその後も夫とうまくやっていったようであった。

ニオベ
 彼女は、ゼウスが人間の女と交わった最初の女性と伝えられ、その子どもに「アルゴス」と「ペラスゴス」とを得たという。「アルゴス」はペロポネソス半島の支配者となり、その地を「アルゴス」と命名したとされ、「ペラスゴス」はそのうちの「アルカディア地方」の王となったとされる。いうまでもなく、この伝承はペロポネソスの中心であった「アルゴス地方」の名前の由来話と言える。

 ゼウスの愛人にはまだ他にもいるのだが、以上の女性たちがゼウスを魅了した女性達の代表と言える。

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