2019/09/07

プラトン(12) ~ エルの物語(1)

エルの物語」、または「エルの神話(英語: Myth of Er」とは、プラトンが『国家』の末尾で記述した冥府の物語のこと。

パンピュリア族のアルメニオスの子エルが、死後十二日間に渡って体験した臨死体験という体裁を採り、輪廻転生、閻魔大王のごとき冥府の裁判官たち、天国と地獄、天動説的宇宙論など、様々な要素が盛り込まれた物語となっている。

『パイドロス』内で語られる3番目の物語とも内容的に関連している。

『国家』で一連の問答を終えた後、ソクラテスはグラウコンに対して、正義の人が生存中に受け取る利益については語り終えたが、正義の人、不正の人それぞれに死後待ち受けているものと比べたら、それらは些細なものであるとして、死後の話としてエルの物語を語り始める。

パンピュリア族のアルメニオスの子エルは、勇敢な戦士であり戦争で最期をとげた。しかし死後10日経ってもエルの死体は腐らず、12日目に火葬される直前になって息を吹き返した。そして、あの世で見てきた様々な事柄を語ったという。

冥府の裁判所
エルの魂は死後、身体を離れて他の魂と共に不思議な場所に到着した。そこは右上と左下に天と地に繋がる出入り口の穴がそれぞれ2つ開いている空間で、その間に裁判官たちが座っていた。

魂たちはそこで次々に裁かれ、正しい人々にはその判決内容を示す印が前に付けられ、右の穴から上に行くよう命じられ、不正な人々は全ての悪業を示す印が後ろに付けられ、左の穴から下へ向かうよう命じられる。

そこで、エル自身は「死後の世界を人間たちに伝える者」としての役割を伝えられ、ここで行われることを全て見聞きするよう指示される。

地獄と天国
天と地のそれぞれ2つある穴は、1つが立ち去るための「出口」で、もう1つが帰ってくるための「入り口」になっている。地の「入り口」からは汚れと埃にまみれた魂が、天の「入り口」からは浄らかな姿の魂が、帰ってきて隣接の「牧場」へと集まり、互いに経験したことを訪ね、教え合う。地下で、どんなに恐ろしいことをどれだけたくさん受けたり、見なくてはならなかったか。天では、どれだけ喜ばしい幸福と計り知れない美しい観ものがあったか。

魂たちは、生前の行いの正・不正に応じた恩恵と刑罰を受けるが、それは一回100年で10回繰り返され、合計1000年続く(そして「牧場」へ帰ってくる)。これは人間の一生を100年と見なし、10倍分の報いを与えるためだという。

大罪者の扱い
神々や生みの親に対する不敬や、殺人を行った者などは、さらに大きな報いが加えられる。その例として、アルディアイオスという人物が挙げられる。アルディアイオスは、1000年前にパンピュリアのある国の独裁僭主だった人物で、父・兄を殺し、数多くの不敬な所業を重ねたという。

アルディアイオスが、他の独裁僭主たちや一般の大罪者らと共に地下から出ようとすると、まだ十分に罪の報いを受けてないとして出口の穴が咆哮の声を上げ、猛々しい男たちが彼らを鷲掴みにして連れ去った。そして、特にアルディアイオスら何人かの手と足と頭を縛り上げ、投げ倒して皮を剥ぎ、刺(とげ)の上で羊毛をすくように肉を引き裂き、通り過ぎる者たちに彼らがどうしてこのような目に遭っているのかと、これから彼らがタルタロス(奈落)に放り込まれるために連れ去られることを告知した。

それゆえに穴から帰る者は、その穴が咆哮の声を上げやしないか、そのことを最も恐れ、沈黙している時は、この上ない喜びを感じるという。

天球の構造
「牧場」に集まった魂たちは、そこで7日間過ごし、8日目に旅に出なくてはならない。

旅立って4日目に、彼らは上方から天と地の全体を貫いている柱のような光(天球の中心軸)を目にする。それは虹に似ているが、もっと明るく輝き、もっと清らかだった。

さらに1日かけてそこへと到着すると、その光の両端は天球の外側を通った外回りでも繋がっていて、ちょうど天球を内側と外側から締める光の綱だった。

天球の中心軸にはアナンケー(必然)の女神の紡錘が挿さっており、その紡錘の「はずみ車」は、それぞれ特有の輝き・明るさ・色彩を持ちながら、椀を入れ子状にしたように8つ重なっており、上から見るとその縁がいくつもの輪として見えるようになっている(地球を中心とした、月・太陽・太陽系惑星・その他の恒星群の周回軌道に対応している)。

紡錘はアナンケー(必然)の女神の膝の中で回転しており、それぞれの輪は、それぞれの速さで回転している。そして、その11つの輪にはセイレーンが乗ってそれぞれの声(1つの音)を発しており、全部で8つの声が互いに協和し合って単一の音階を構成している。

またアナンケー(必然)の女神の娘たち、すなわちモイライ(運命の女神たち)であるラケシス(過去)、クロートー(現在)、アトロポス(未来)も等間隔で輪になって玉座に座り、セイレーンの音楽に合わせて歌いながら、手で紡錘の「はずみ車」の回転を助けていた。
出典 Wikipedia

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