「悪法も法だ。
法によって死刑という判決がでたのなら、自分は甘んじてそれを受け入れよう!」
そういって、自ら毒を飲んで死んだ哲学者ソクラテス。
自らの信念を貫き通すため、命さえ投げ出したソクラテスという存在が、後世の哲学者たちに与えた影響は計り知れない。
だが、実のところ、ソクラテスは自分で一冊の本も書いていなかったりする。
したがって、ソクラテスが、どんな人で、どんな考えを持っていたのか……
本当のところは、よくわかっていない。
だから、ソクラテスについては、その弟子の著作から、想像するしかないのが現状である。
実は、弟子によっては、ソクラテスを「説教好きの退屈なおじさん」として書き残している人もいたりと、弟子それぞれで、ソクラテスの印象がまったく違っている。
だから、ソクラテスが、本当はどういう人で、どんな思想を持っていたのか、というのは謎だったりする。
では、現在のようなソクラテス像(「哲学者の代名詞」というイメージ)はどこから来たのかといえば、それらはすべて「ソクラテスの弟子であるプラトン」が書き残した本から来ている。
プラトンが書き残した哲学の本は、そのほとんどが「ソクラテスが活躍する物語」の形で書かれており、現在の「ソクラテス像」は、これらの本に出てくる「ソクラテス」が元になっている。
だから、実際のところ、「本当のソクラテス」が「プラトンの著作の中に出てくるソクラテス」のように聡明な哲学的英雄だったかどうかは、今となっては誰にもわからない。
だが、ひとつだけ、はっきりしていることがある。
それは、プラトンは、本当に本当に深くソクラテスを尊敬していたということだ。
プラトンは、ソクラテスを深く尊敬していたからこそ、哲学を語るときソクラテスを活躍させる形で著作を書いたのである。
では、そのプラトン自身はどんな人だったのかといえば、
・王の血を引く貴族の息子
・趣味は、文学や詩や演劇(しかも若くして自分で作品も書いている)
・将来の夢は、政治家
という感じの、才能溢れる超エリート人間だった。
家柄は名門中の名門、その上、豊かな才能を持っている若者プラトンは、放っておいても、順調に出世街道を歩み、ゆくゆくは国を動かす偉大な政治家として名を残したことだろう。
だが、そんなプラトンは、偶然、街でソクラテスに出会ってしまう。
ところで、当時のソフィストたちは、みな「街頭で、大衆に向かって、一方的に演説をする」というスタイルで活動をしていたが、ソクラテスは一風変わっており、
「街を行く普通の人を捕まえては、疑問をなげかけて、対話しながら一緒に問題を追及して行く」
という独特のスタイルで活動していた。
「本当の善とは何か!?
本当の愛とは何か!?
みんな軽々しく、善だ愛だ、と言っているが、我々はまったく、それについて知らないじゃないか!
本当の善とは何か、一緒に考えようじゃないか!
そこの道を行く、キミ!キミはどう思う?」
そんなソクラテスとの出会いは、プラトンの今までの世界観を一変してしまうほど衝撃的だった。
「自分だって、何も知らないじゃないか。
それなのに、調子にのって、愛だ何だと劇まで作って・・・」
プラトンは、ソクラテスの話を聞いてるうちに、自分が書いてきた詩や演劇作品が急に、恥ずかしくなってしまい、それらの作品をすべて炎の中に投げ入れて、
そのままソクラテスの弟子となり、哲学の世界にハマッていくことになるのだが、
その矢先、例の事件により、ソクラテスは突然、死刑を言い渡され、自ら毒を飲んで死んでしまうのだった。
この事件は、純粋な超エリート青年プラトンの、その後の人生を一変してしまうほどの衝撃を与えた。
「ソクラテス師匠が、何をしたって言うんだ!
ただ、真実を追い求めていただけじゃないか!?
それなのに、なぜ、死刑にならなきゃいけなかったんだ!?
うぉおぉぉ、師匠ぉ~~~!!_| ̄|○」
この無念さ、憤りが、プラトンをより哲学の世界へと駆り立てる。
こうして、ソクラテスの「真理の探究」という熱い炎は、プラトンに受け継がれることになる。
プラトンは、師匠の情熱を引き継いで、悩みに悩みぬき、考え続けた。
「師匠は、言葉に踊らされず、
『本当の善とは何か?』『本当の愛とは何か?』
それを探求せよと言った。
でも、そんなものが本当にあるのだろうか?
いやいや、自分は、師匠が言った、その『本当の何か』を
探し続けるんだ!」
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