2019/09/16

プラトン(13) ~ エルの物語(2)


転生の選択
魂たちは女神ラケシスのところへ行くよう命じられ、行くと神官が彼らを整列させ、ラケシスから「くじ」と「生涯の見本」を受け取り、高壇に登って新たな周期(転生)が始まることを告げつつ「くじ」を皆に投げ与える。

魂たちは「くじ」の番号順に「生涯の見本」の中から、望みの生涯を選ぶ。まさにこの時のためにこそ「善い生涯」(魂を正しくする生涯)と「悪い生涯」(魂を不正にする生涯)を識別し選択できる能力・知識を磨いておかねばならないとソクラテスは言う。

1番のくじを引き当てた者は、浅はかさと欲深さのために「最大の独裁僭主の生涯」を選んでしまい、後で自分の選択を嘆いた。彼は天上から来た魂だったが、前世においてよく秩序立てられた国制の中で過ごしたおかげで、真の知の追求(哲学)をすることなく、ただ慣習の力によって徳を身につけた者だったので、そのような選択をしてしまった。同じく天上から来た少なからざる魂が、似たような安易な選択をしてしまった。彼らは苦悩によって教えられることがなかったから。

逆に地下から来た魂たちは、自身も散々苦しみ、また他者の苦しみも見てきたので、決して安易な選択はせず慎重に選んだ。それぞれの魂の選択は、たいていの場合「前世における習慣」に左右された。

オルペウスの魂は、女たち(マイナデス)に殺されて女性を憎み、女性から生まれるのを嫌がって「白鳥の生涯」を選んだ。

タミュラスの魂は「夜鶯の生涯」を選んだ。

また逆に白鳥やその他の音楽的な動物の魂が、人間に生まれ変わるために「人間の生涯」を選んだりもした。

20番目のアイアースの魂は、武具をめぐる競技会の判定が忘れられず、人間に生まれることを嫌って「ライオンの生涯」を選んだ。

続くアガメムノーンの魂も、自分が受けた災難ゆえに人間を忌み嫌い「鷲の生涯」を選んだ。

アタランテーの魂は、男子競技者に与えられる大きな栄誉を目にして、その生涯を選んだ。

エペイオスの魂は、技術の秀でた女に生まれ変わることを選んだ。

道化者テルシーテースの魂は、猿に生まれることを選んだ。

たまたま最後になったオデュッセウスの魂は、前世の数々の苦労が身にしみて野心も枯れ果てていたので、厄介事のない「一私人の生涯」を選んだ。

他の動物の魂も、人間を選ぶもの、動物を選ぶものどちらもあった。不正な動物は凶暴な野獣となり、正しい動物はおとなしい家畜になった。

忘却と転生
全ての魂が新たな生涯を選び終えると、くじの順番で整列して、ラケシス、クロートー、アトロポスのモイライ(運命の女神たち)の下へ行き、その運命の糸を不変なものとしてもらい、アナンケー(必然)の女神の玉座の下を通って「レーテー(忘却)の野」へと旅路を進んだ。それは草木一本生えてない炎熱の道行きだった。

夕方になって「アメレース(放念)の河」のほとりに宿営することになったが、この河の水はどのような容器でも汲むことができなかった。全ての魂は、この水を決められた量だけ飲まなければならなかったが、自制することができない者たちは決められた量よりたくさん飲んだ。そして皆、一切のことを忘れてしまった。

皆が就寝して真夜中になると雷鳴が轟き、大地が揺れ、突如としてそれぞれの魂は流星のように、それぞれの場所へと運び去られて行った。

エルは河の水を飲むことを禁じられていたので記憶を失わなかったが、どこを通りどう肉体の中に帰ってきたかは分からなかった。不意に目を開くと、明け方に火葬のための薪の上に横たわっているのを見出した。

最後に、ソクラテスはグラウコンに言う。

こうして「エルの物語」は滅びず救われたのであり、我々がこの物語を信じるなら、我々自身も救うことになるだろう。忘却の河を渡っても、魂を汚さずに済むだろう。魂が不死で、あらゆる悪にも善にも堪えうるものだと信じるならば、我々は常に向上の道を外れることなく、あらゆる努力を尽くして正義と思慮にいそしむことになるだろう。そうすることで生前も死後も、1000年の旅路においても、我々は幸せであることができるだろう。

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