貴族は大土地所有を守れたから良かったかもしれないけれど、ローマ軍の弱体化をどうするかという問題は残った。これを一気に解決したのがマリウスの軍制改革(前107)でした。
マリウスというのは将軍として頭角を現し、コンスルになった人物です。ローマの軍隊の基本中の基本は、財産を持ったローマ市民が武器自弁で兵士となって従軍する、というこの一点です。だからグラックス兄弟は、武器自弁が出来る農民を作りだそうとした。
でもマリウスは、この基本をあっさり捨ててしまう。
「財産ない者が兵士になったっていいじゃないの。」
と彼は言う。しかし、彼らは武器が買えないじゃないか。
「そんな物、俺が買い与えてやるよ。」
と彼は言う。
というわけで、マリウスはルンペン市民を兵士として採用し、武器を与え、給料も払ってやるんです。その費用は、基本的には彼のポケットマネーから出す。兵士として働ける期間というのは、そんなに長いモノではないです。ある程度年をとったら、兵士としては引退です。こういう退役兵に対しても、マリウスは面倒を見てやる。ある程度勤めてから辞める兵には、土地を分けてやる。そして、自作農民として生きていけるようにしてやるの。
武器自弁の原則を放棄することで、兵士不足は一気に解決して、マリウスはこの新しい軍隊で勝利を続けました。これがマリウスの軍制改革。
しかし、この軍制改革で、ローマ軍の質が大きく変化したんです。武器自弁の農民軍だった時は、兵士はローマ市民の義務を自覚して従軍していた。ローマのために戦ったわけですね。ところが、マリウスの兵はどうか。彼らの気持ちの中で、ローマのために、ローマ市民の義務としてという意識は小さくなる。それよりも「自分を雇ってくれているマリウス将軍のために」という気持ちの方が大きくなる。マリウスも、それを意識して兵士を手懐けていきます。こういう現象を軍隊の「私兵化」という。
私兵の軍事力を背景にして、マリウスのローマ政界での発言力は重みを増す。選挙の時には、彼の兵士たちがマリウスに投票してくれるわけ。兵士はみんな平民ですから、平民会でマリウスをローマ政府の役職に就けることが出来るのですよ。これは、自分の政治勢力を伸ばしたいという貴族政治家にとっては上手いやり方だね。後に多くの野心家たちが、マリウスのやり方を真似ることになります。そして、私兵を養った将軍同士の内乱が続いて、ローマは混乱の時代を迎えます。
グラックス兄弟の改革から100年間を「内乱の一世紀」と呼びます。前91年から前88年には、イタリアの都市がローマ市民権を求めて、ローマに反乱を起こします。同盟市戦争という。ローマはローマ市民権をイタリア諸都市に与えることで、この戦争を終わらせました。
続いて前88年から前82年まで、マリウスとスラという将軍の抗争が起こります。スラは大金持ちの貴族で、多くの私兵を養っている。同じローマの将軍同士が、ローマ兵を率いて戦いあうわけです。スラは、軍隊が決して入城することが許されなかったローマ市内に乱入したりした。ローマの指導者集団である元老院は何をしていたかというと、この二人の将軍の抗争に振り回されるだけで、これを解決できなかった。元老院の権威が、段々と低下します。
ちなみにマリウスは平民派、スラは閥族派となっていますね。平民派というのは、公職に就く時に平民の支持を背景にしていたということ。閥族派は、貴族勢力を背景に公職を目指していたものだと理解しておいてください。政治的な考え方に違いがあるわけではありません。
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