2006/05/27

五井、五位(御油)


 五井という地名の由来には、諸説ある。以下、箇条書にする。

A)行基菩薩が当地を通った時に、5つの井戸を掘った。その古事に由来するとする説。この説は五井では昔から言い伝えられており、最も広く信じられている。

B)井は井戸ではなく、その字の形から東西南北に通ずる交通の重要拠点を意味する。すなわち、お互いに交流する地という意味で「互井」と呼んだ。その名に由来するとする説。

C)五井の山向こうには「御油」(ごゆ)という地名がある。五井(Goi)と御油(Goyu)は元来同じ名(Goy)であり、その意味は既に失われたとする説。御油の東方に「下五井」という地名がある事が、この説の補強材料である。〔地名学的考察〕

地名学の教える所では地名は極めて良く保存され、人種や民族が入れ替わっても元の地名が伝えられるという。五井の地名も、あるいは先住民の言語で解釈できるのかもしれない。使われた文字は、語源を探る上で決定的ではない。なぜなら、和同6年の『延喜式』で「おおよそ諸国部内の郷里等の名、みな二字を用い必ず嘉名を取れ」と指示されているからである。

ちなみに「地名用語語源辞典」をひもとくと

ごい〔五位、五井〕
(1)ゴウ・ヰで「川」を意味する語を重ねた地名か
(2)オイ(意悲)の転(吉田東伍の説)
(3)オイ(負)の意か
(4)オ(接頭語)・ヒ(樋、川の意)という地名か
(5)ゴユ、コユの転。・ごゆ
(6)ゴウ(川の意)・ユ(水の意)の約で、河川を意味する同義語を連ねた地名か、とある。

また、同書の御油の項には

ごゆ〔御油〕
(1)御油田の略で、寺社の灯明油に当てられた田の意か
(2)ゴヰ(五井)の転か。・ごい
(3)動詞コユ(崩)から「崩落地形」を示す地名か
(4)動詞コユ(越)から「峠道を越える所」の意か、とある。

「ごい」の項には「ごゆを見よ」、「ごゆ」の項には「ごいを見よ」とあり、どちらが先とも決め難い。上書の編者達を含む「古代地名語源辞典」では、こゆ(児湯)の章に「コユ、ゴユという地名が各地にあるが、いずれも峠路にのぞんだ地、およびその付近の山名である。コユは『越ゆ』の意か」と記載されている。当地では川は考えにくいので、峠ないし崩落地形の方がまだしも適合しそうである。

五井と御油は発音上、相当に違いそうな気がするが、実際に御油から五井へと変化した例がある。それは愛知県豊橋市の下条西町の五井で、中世にそこに「御油」村があったが、近世に「五井」村となったという。

全国には「ごい」の地名そのものは、決して多くない。全日本地名辞典1996年版(三省堂)には

・富山県西礪波郡福岡町五位
・千葉県市原市五井
・千葉県長生郡白子町五井
・愛知県豊田市畝部西町字五位
・北海道中川郡幕別町字五位
が挙げられている。

これ以外には、奈良県橿原市にも五井町がある。角川の地名辞典も、これ以上を教えてはくれない。最も本質的な問題として五井は果たして村名か、それとも山名かどちらが先かがある。五井山の麓にあるから五井村なのか、五井村の裏にあるから五井山なのか、という疑問である。本当のところは、よくわからない。

この問題を含めより本格的な分析を行うには、全国小字地名の徹底的調査が必要であろう。

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