その後、例によってしばらくは連絡が途絶えていたが、随分と時間が経ってから電話が掛かってきた。
「例の項番xの件ですが・・・」
「はぁ・・・」
「確認したところ、ログを取るのをうっかりと忘れていたようです。担当者は画面上で、確認したのは間違いないと言っていますが・・・」
「ログを取ってなかった・・・と」
「どうも、そうらしいのです・・・ただNGが出た事は間違いなく確認しているので、私どもとしましてはこの部分は終わったものと考えておりますが・・・」
「しかし・・・それを証明するものがありますか?」
「担当した者は確かに確認した、と申しております。それでは、ご信用いただけないと?」
「私が信用するしないの次元の話ではないでしょう?
我々の立場としても、またルール上からもX省やY省に対して審査のログを総て提出しないと、この作業は完了となりません。我々の方ではログをロストとしたものは未完であり、再審査をしてもログを残す事になっておりますが、貴省側の考えとしてそれで不都合はないのでしょうか?」
「決して、確認が不充分だったわけではないのです・・・」
とS氏はなおも呪文を唱えるような、慟哭を繰り返した。
「実はですね・・・あのメールで我々の確認が不充分だったというのが、非常に問題になっておりまして・・・」
「・・・」
「Y省の担当者から
『キミらは確認もせずに、作業をしているのか?』
と、かなり厳しくお咎めがありまして・・・」
それは事実だから、仕方がないだろうと思っていると
「まったく・・・大変、困った事になってしまいました・・・ここだけの話ですが
『そのようないい加減な作業をしているベンダーに、我が省の業務を任せていていいのか?』
という話にまで、発展しておるのです・・・」
正直、そこまでの事態だとは思ってもいなかった。
相手が確認不充分だったのは紛れもない事実であり、決してこちらが嘘のメールを送ったわけではないし、またX省やY省に状況の連絡をする必要があるから、メールのCcに入れるのもルール通りである。
実際に相手の確認が不充分だったがために、深夜まで付き合わされたのは事実であり、その遅れの状況の説明を正確に書かざるを得ないのも、これまた当然のことである。
が、その結果として、相手が窮地に陥っているらしい。
下手をすれば、違うベンダーに変えようという動きさえ出ているというから、これは穏やかならざる事態である。
確かに自業自得であり、こちらの責任ではまったくないとは言え、さすがにこれは寝覚めが悪かったし、単に寝覚めが悪いというだけではなく、どんな事情であれ関わった相手がそのような窮地に陥って助けを求めてきているのを、無碍に切り捨てるわけにもいかない。
「事情は、おおよそわかりました」
「先にも申しました通り
『我々の確認が不充分だった』
という点が、非常にクローズアップされ問題視されていますので、是非ともその点をメールで訂正いただきたいのです」
「趣旨は理解したので、少し時間をください」
と一旦電話を切り、マシンルームに移動して携帯から掛け直す。
「リーダーなどに聞かれると色々と面倒なので、マシン室に移動して掛けています。私としては、先にも述べた通りあくまでそちらの確認が充分でなかった事で、作業の遅れが発生したものと理解している事に、変わりはありません」
「・・・」
「ですが、こちらから送ったメールが元で、そのような事態になったというのは不本意ですから、メールの訂正で事態が収拾するなら対応は可能だと思っています」
「本当ですかっ?」
「まあ、嘘は書けませんが、物は言いようなので・・・今の話からすると『確認不充分』という点を言い換えれば、良いのでは?」
「それは・・・例えば、どのように・・・?」
「例えば確認観点にズレがあったとか、作業手順の入れ違いがあったとかと言い換えては、どうでしょう?」
なんと言っても、こちらとしてはメールの文面などよりは、相手のいい加減な作業で実際には完了していないであろう、項番Xのやり直しをさせる方が重要なのである。
「確認観点のにズレ・・・作業手順の入れ違いか・・・それなら、説明がつきそうですね。では、そのように訂正をしていただけるのでしょうか?」
「そのために項番Xをやり直す、という前提であればですが」
「承知しました」
と話がまとまり、深夜に訂正のメールを作成した事で、なんとか事無きを得た。
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