ところでこの審査は、この国家機関では最大のイベントになるだけに、毎日の進捗状況をS省にメールで知らせる必要があった。
といってもイチイチ報告するのではなく、審査で行うファイルやり取りのメールの宛先に、x省の課長クラスと課長補佐を入れておくのが、慣わしとなっていた。
そのメールの中で
「技術審査の項番xに関して、貴社作業において確認不充分の部分があり、そのため一部審査の正確性を担保できない恐れがあるため、再度項番xに関わる手順をやり直す必要がある」
という趣旨の記載をした。
相手のいい加減な作業によって深夜まで付き合わされた挙句、こんなネガティブな内容のメールを書かなければいけなくなったこちらとしては、これでもかなり抑えた内容の文面だったが、これに対して先方作業リーダーのS氏からクレームが入ったのである。
「先ほどのメールの件についてですが・・・」
「はぁ?」
「あの件については、決して我々の確認が不充分だったわけではありません!」
と、さも心外だといわんばかりの、強い口調だった。
「あのメールの内容について、直ぐに訂正していただきたい」
「なぜ?」
繰り返すが、あの段階で相手が真っ当な確認作業をしていたら、こんな問題は起きなかったのであり、それが相手のいい加減な作業によって、深夜まで付き合わされているのは厳然たる事実だ。
現に、ようやく作業が終わって帰ろうとしているのに、このような書きたくもないくだらないメールを書かなければいけなくなったこちらとしては、これでもかなり抑えた内容の文面なのだから、それに対するクレームというのは心外だった。
「あれは決して、我々の確認が不充分だったわけではないのです・・・」
と、普段はクールなS氏が人が変わったような、搾り出すような口調だったから驚いた。
さては、嫌味なお役所の人間から問い詰められ
(では、目の前で潔白証明をしてみせろ!)
てなことにでもなっているのか? と疑ったほどだった。
「我々としては確認不充分という決め付けをされるのは不本意であり、先のメールの訂正をしていただきたい」
と、なおも繰り返すではないか。
「ならば、やり直しをする理由は、なんですか?」
「それは・・・」
「実際に確認すべきところが、確認できてなかった。だからこんな夜中になってまで、同じ手順をやり直しをしているのではないのでしょうか?」
「それについてですが、実は別の担当者に確認したところ、ちゃんとNGが帰ってきたのを確認した、ということでした。
ですので我々としては、決して確認が不充分ではなかったし、作業をやり直す必要はないと考えております」
「それは事実ですか?」
「担当は、そう申しております・・・」
「確か昨日の話では、結果が返ってくる前に止めたという事でしたが・・・」
「あれは私の勘違いで、別の作業の話でした。
最初にも申しましたとおり、私どもの方では別のプロジェクトと並行して動いているので、そちらの方と勘違いしておりました。
ここだけの話ですが、実はそちらの方でちょっとしたトラブルが発生しておりますので・・・」
どう聞いても、胡散臭いではないか。
「で、技術審査の項番xの時にはいつもの担当のKではなく、別の者がやっておりまして、NGが帰ってきたのをちゃんと確認したと申しております」
「NGのログは、残っていますか?」
「あるはずです。確認してみますが・・・」
どうせ嘘だから、あるはずはないと思っていたのが、案外にも自信ありげな口調である。
勿論、結果のログくらいは捏造しようと思えば出来なくはないが。
「ですので、先のメールの
『確認が不充分だった』
というのは正しくはないので、直ぐに訂正していただきたい」
と、強い口調で訴えた。
何をそんなに拘っているのかわからないが、段々と面倒になってきた。
「わかりました。
勿論、勘違いはありうるでしょうから、結果のログを頂いた上、内容に問題がなければ(作為が含まれていないという意味で)訂正しますよ」
「ありがとうございます!
では、担当者に確認してみます」
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