2007/01/12

モーツァルト ピアノ協奏曲第9番『ジュノーム』(第1楽章)

 


21歳を迎えたモーツァルトは、今までのピアノコンチェルトは全く相貌を異にした成熟した作品を生み出した。それが、今日「ジュノーム」という愛称で親しまれている、この曲である。

 

この飛躍をもたらしたのは、この作品の愛称のもとになっているフランスの若き女性ピアニストであったジュノームとの出会いだ、と言われてきた。彼女は、この作品が生み出される前年にザルツブルグを訪れて何度か演奏会を行い、その演奏が若きモーツァルトに芸術的インスピレーションを与えてこの作品に結実した・・・と言うのだ。

 

しかし、肝心のこのジュノームという人については、これまで詳しいことが分かっていなかった。現在のモーツァルト研究の大家たるザスローも、次のように述べている。

 

    彼女は偉大なピアニストだったのだろうか?

    若くて美くしかったのだろうか?

    彼女については何も分かっていない。

 

結構筆まめでたくさんの手紙を残しているモーツァルトだが、このジュノームに関しては殆ど詳しいことは触れられていない。僅かに触れられているのは、ミュンヘンでの演奏会で、この作品を演奏したことを父親に告げる手紙で「ジュノミ用」と書いていることと、パリでの滞在時で彼女と再び会ったことを仄めかしていることだけだ。だが重要なことは、一度も「ジュノム嬢(Mademoiselle Jeunehomme)」とは表現していないことである。

 

6番、第8番、第9番は作曲年代が近いが、3曲の中で最後にあるこの第9番は内容、形式ともに特に優れた曲として高く評価されている。

 

1楽章の冒頭で、オーケストラによる第1主題の呼びかけに応えていきなり独奏ピアノが登場するところなどは、型破りなスタイルで、このスタイルはベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番、第5番「皇帝」の先駆とも言われる。特に「皇帝」とは、変ホ長調という調性も共通している。「皇帝」に比べるとかなり可愛らしい感じとはいえ、ソロの登場の仕方などもかなり似ているといえる。

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