2015/06/14

日本料理の分類と分析(世界遺産登録記念・日本料理の魅力)(16)

出典「日本料理(Japanese culinary art and culture)」の 世界無形文化遺産登録に向けた提案書

 

(7) 提供様式

ア)献立

酒と料理を楽しむ一般的な会席料理と、法事などの際の精進料理、茶を楽しむことを主とする懐石料理とで、それぞれ提供様式が異なる。

 

一般的な会席料理

・前菜、吸い物、造り、煮物、焼物、揚物、蒸し物、酢の物、飯(麺・寿司)、香の物、水菓子(果物)

 

懐石料理

・飯(麺・寿司)、汁、向付(むこうづけ)、煮物、焼物、強肴(しいざかな)、箸洗(はしあらい)、八寸(はっすん)、香の物、菓子

 

一般的な精進料理

【本膳】 ・平椀(煮物)、小蓋(豆腐)、香の物、坪(酢の物)、木皿(刺身)、飯(麺・寿司)、汁

【二の膳】 ・揚物、蒸し物

イ)食材

季節(四季や二十四節気)ごとのの食材が、料理を提供される側の年齢や嗜好、提供される場所や天候、メッセージや趣向、献立におけるバランス等に配慮されながら準備され、本来の味を活かした調理法が工夫される。地域の歴史や文化に根ざした食材が尊重され、独特の料理法が発展している例も多い。

 

ウ)あしらい

風味と風情を引き立てるため、刺身や汁などに添える野菜や海藻のこと。一般的にはけん、つま、かいしき(掻敷/皆敷)を総称して「あしらい」とよぶ。料理に添えて料理を引き立たせる役目を果たし、香りと辛みのほかに色、姿を加えて料理を飾り、季節感を呼び起こし食欲を増進する役割もある。

 

エ)食器

漆器、陶器、磁器など、多くの種類を併用する。器には多彩な絵付けが施され、余白も含めた盛り付けが工夫される。箸の種類や役割も多様で趣向や用途に応じた使い分けがされ、箸の美しい持ち方、使い方が重要なマナーとされる。

 

オ)日本酒、日本茶、菓子

稲作を中心とした日本において「先祖の神様の食事」である日本酒は、古くより人々の生活に密着し今も儀礼に欠かせない要素であり、茶道は日本料理に高い精神性・芸術性をもたらしている。このため日本料理の献立、メッセージや趣向と合わせたもてなしの重要な要素として、全体と調和した日本酒・日本茶・菓子(果物を含む)が提供される。なお、日本料理においては、酒を飲む時(献の時)の菜(おかず)と食事のための菜は室町時代まで区別されており、この献と食を一緒にしたのが茶道で、今の会席料理の形態は江戸時代からになる。

 

6) 技術的側面

日本料理の特徴を技術的側面から整理する。

 

定式と基本要素

まず基本として、「五味五色五法(ごみごしきごほう)」の定式を持つ。

五味:全体バランスを考慮した甘味、辛味、塩味、苦味、酸味の五つの味付

五色赤、青、黄、白、黒の五つの色彩を取り入れる

五法:「焼く」、「煮る」、「蒸す」、「揚げる」、「生(き)を活かす」料理方法を指す。

 

さらに以下の要素を、日本料理の主な特色として挙げることができる。

 

1.椀刺(椀差 わんざし)

吸い物と刺身。コースのメインディッシュとして季節感やメッセージを込める。

 

2.割主烹従(かっしゅほうじゅう)

割る/切る」が主、「煮る/焼く」は従であるという日本料理の基本理念で、ここから日本料理を「割烹(かっぽう)」とも呼称する。

 

3.単味の味覚

素材自体を単味で味わい、その旨みを最高に活かすこと。

 

4.返り味

口を付けた瞬間に味が分からなくとも、一旦胃袋に収まってからゆっくりと脳に刺激が伝わり、再び口に戻ってきて「旨い」と感じる味のこと。

 

5.引き出しの料理

食材や調味料を重ねていくのではなく、食材の中から旨み成分を湯の中に引き出す(抽き出す)こと。

 

6.季節感(走り・・名残)

の食材は美味しく、素材そのものの味を楽しむ好機と考えられている。季節を先取りする「走り」、翌年まで食べられなくなる直前の「名残」など、よりは味が落ちるが素材の扱いを変え、同じ食材でも走り、、名残と三度の季節感を楽しむことがある。

 

7.盛り付け

調理した食材の大きさや器の大きさは、料理を提供される側がいかに心地よく食することができるかを基準に定められている場合が多く、それらを彩りよく並べるだけでなく器の質感や絵柄なども吟味し、見た目にも美しく季節や風情を盛り込むルールがある。「取り合わせの美」や「余白の美」といった言葉に表されるように、余白も含めて背後の自然や物語を想像させることも多い。

 

8.三真

切り方、盛り方、色組み合わせの応用技術のこと。

 

9.基本の調味料

さしすせそ」の語呂合わせがある。5 種類(砂糖・塩・酢・醤油・味噌)の調味料を基本とする。醤油はチャイナ・コリアと製法、味ともに異なる日本独自の調味料である。

 

10.口中調味

飯と他の料理を口の中で混ぜながら味の深みや濃さを調整することで、香りや食感を豊かにすること。

 

多種多様な包丁と包丁捌き

日本料理では魚を生ものとして食するため、素材を活かすためにも手早く・手際よく・美しく切る技術(包丁さばき)と道具が発展した。特に日本料理に用いる包丁(和包丁)は、食材や切り方によって10種類以上に分かれ、同じ食材に対するものでも地方によって包丁の形状が異なることもある。

 

しつらえ(もてなしの空間)と女将

日本の伝統建築に掲げる掛け軸や生花など、季節感や空間の美と合わせて料理を五感で味わい、料理を提供する側とされる側が、託された思いやメッセージを共感できる「もてなしの空間」として総合的にもてなす。日本料理では、そのような空間での心配りが重視され、口承による伝統を受け継ぎ自然や万物に関する知識を踏まえたプロデューサーとして「女将(おかみ)」が存在し、演出を手がける。また、華道や茶道、香道、それに料理の場で披露される日本舞踊や伝統音楽なども「もてなしの空間」を演出する会席料理の一部であり、こうした日本特有の伝統芸能も日本料理とともに支持保護され発展してきた。

0 件のコメント:

コメントを投稿