毎日見慣れた顔ぶれの中で、密かに「タコ坊」と名づけていた禿のオジサンがいた。
年の頃は30代後半くらいか、額が禿げ上がった小太りの、まあひとことで言えば風采の上がらないオジサンで、眉間に皺を寄せて不景気そうな表情をしているのが常だった。
もっとも、その時間の電車はいつも満員のぎゅうぎゅう詰めだったから、眉間に皺を寄せて不景気そうな表情をしているのは、必ずしもそのオジサンだけでもなかったが。
勿論、この「タコ坊」が最初から、特に「ラッキーボーイ」の注意を惹いたわけではない。
強いて言えば「タコ坊」が何故かいつも、あの不景気そうな顔をこちら側に向けて立っていたり、またやけにこちらの立っているのに近いところに、さりげなく寄ってくる(?)のが気になっていたくらいで、単純に
「ウぜーな・・・」
という程度のものだったが、なにしろ「ラッキーボーイ」としては、そのような経験はそれこそ掃いて捨てるほどにあったから、当初こそは
(またか・・・)
という程度の認識であった。
ところが、そのうちに不思議なことに気付いた。
というのは先に書いたように、毎日の日課のようなもので帰りの電車の時間が大体同じになっていたのだが、それでも日によっては時間がずれることもある。
そんな際は、いつも見かける何人かの顔ぶれが、あまり馴染みのない顔ぶれに変わっているのは当然だ。
ところが不思議なことに、そんな風に時間がずれた時でもあの例の「タコ坊」だけが、いつに変わらぬあの不景気顔で載っているのである。
そのことに気付いた当初は
「ああ、タコ坊も残業か何かで遅くなったのかな・・・」
と、大して気にも留めていなかったのだが・・・
実際、いつもより1本、2本(急行の感覚は30分おきだった)遅れた場合でも、見慣れた顔が一人や二人は居ることは珍しくなかったのである。
ところが「タコ坊」に限っては、何本ずれても毎度毎度あの疲れたような不景気顔を見せているから、次第に薄気味悪くなってこようというものだ。
こうして
(なんでアイツは、いつも同じ電車の同じ車両に乗ってるのか?)
と芽生えた「疑惑」は、徐々に増幅していった ( ̄_ ̄;) うーん
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