2015/06/10

通勤電車(ストーカーpart1)



 フリーの記者は「足で稼ぐ」ものだ。

 なにか面白いネタは転がっていないかと、日夜安靴の底をすり減らしながら町を徘徊していた。


 一応、某零細編集プロダクションに所属をしていた関係で、同社の社長や編集長からは


 「たまには顔を出せよ」


 と煩く言われていたが、社長も編集長も60前後のジーさんであるし、他の記者もみんな30-40代ということもあって、当時まだ20歳そこそこだった自分からすれば


 「あんな老人ホームのようなところへ行っても話が合わん・・・」


 と給料日以外は、もっぱら足が遠のいていた。


 そのプロダクションから受けていた新聞のページ以外にも、別のルートで雑誌の定期的なページも請け負っていたため最低限の収入は保証されていたが、なにせ元が安い原稿料だから面白いネタを見つけて売り込まないことには、遊ぶ金までは稼げなかった。


 元々、仕事そのものが少ないせいもあったが、仕事は至って早い方だから月の受け持ち分の仕事をこなすのに半月と掛からず、金はなかったが自由な時間だけは充分にあった。

 
 そんなわけで、原稿を仕上げた後は昼過ぎに家を出て、暗くなるまでネタを求めて名古屋の町をあてどなく徘徊する・・・というのが当時の日課になっていた。
 
 取材の時は撮影も兼ねていたため、写真撮影が必要な場合に限ってカメラの機材が重い関係で車で出かけていたが、そうでない時は電車で名古屋に通っていた。
 
 特に目的がないとは言え、こうして日課のようになってくると知らぬ間に帰りの電車の時間が、いつも同じになってしまうものである。
 
 夜の電車は勤め帰りの疲れた顔が並んでいたが、毎日同じ時間帯の電車で乗る場所も決まっているから、車内にも見慣れた顔が並んでいること自体は、まったく不思議ではない。
 
 美人以外には興味のないワタクシでも、毎日見かける数人の顔ぶれだけは何とはなしに覚えてしまっていた。

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