2016/06/17

小説ストーカー(結末編)



 それからン年、ラッキーボーイはITエンジニアとして、よりハイレベルの仕事に誘われ東京に引越し、吉祥寺に居を構えていた。
 
 駅前には色々な店があり、有名店やシャレた店が多い中にあって、あの「京たこ」も目立たないながら、お馴染みの看板を掲げていた。
 
 その頃は、例の「ストーカー事件」からかなりの年月が経っていただけに、元から興味の対象外に過ぎない「タコ坊」の存在などは、すっかり忘却の彼方にあった。
 
 さて、そんな平和な休日のワンシーンのこと。
 駅前に買い物に出た折りに、たまたま例の看板が目に入ったこともあって
 
 (たまには、たこ焼きでも食うか・・・)
 
 と、例の京たこのカウンターに近寄ると、汗にまみれた禿げ頭に捩じり鉢巻きをして、一心にたこ焼きを焼いていた中年男が顔を上げた。
 
 「やあ、いらっしゃい!」
 
 この時、ラッキーボーイの脳裏には、一瞬にしてン年の時空を遡って「タコ坊」の記憶が蘇った
 
 (まさか、あのタコオヤジではなかろーな!)
 
 と、あの遠い記憶にある丸っこい禿頭を睨めつけたが、現実は・・・無論、あの世の不幸を一身に背負ったような陰気な「タコ坊」が、この東京に居ようはずがない(断じて)!
 
 (そうだ・・・ここは東京なのだから、あのタコ坊が居るわけないじゃないか・・・)
 
 それが「常識」というものだ。
 
 が、「世の常識」というものは、往々にして覆される運命にあったりする・・・遠い記憶にある丸っこい禿頭を睨めつけると・・・そのうろ覚えの記憶の靄はあっという間に晴れて、鮮明な映像が蘇った!
 
 すっかり老けたとはいえ、紛れもないあの「タコ坊」その人に間違いないではないか!
 
 あたかも
 
 「アンタをお待ちしていましたよ!」
 
 とでもいうような、ストーカー特有の粘液質な薄笑いを張り付けた顔が、年輪を重ねて一層の不気味な凄絶さを増していた
 
 「あ、アンタは・・・」
 
 (イヒヒヒ。
 逃げようったって、そうはいかんぜ、ラッキーさんよ!
 
まあ、この店に「異動」になったのは、まったくの偶然だけどね・・・)
 
 とでも言いたげに「タコ坊」、いや「タコオヤジ」は、地獄から這い出してきたような陰気な薄笑いで嬉しそうに笑ってみせた・・・ (*ΦΦ*)ニシシシシ

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 「えーっ!
 これ、嘘っ!!」

 
 弾かれるようにして、PCから目を上げた「しのぶ」が叫んだ。
 
 「これって、創作だよね?
 あ、名古屋時代の話は、案外本当っぽいけど、さすがに東京の、それも近所の店に転勤なんて。
 絶対ありえんーっ!

 
 「そうかな?
 
事実は小説より奇なり』なんてこともあるだろ・・・」
 
 「えーっ?
 じゃあ、マジー?」

 
 「まあ東京のところは、さすがに創作・・・かも・・」
 
 「な~んだー、ガッカリー」
 
 「ガッカリっつーこたーねーだろ・・」
 
 「でもさ・・・私にこんなストーカーがいたなんてビックリだよ・・・だって、全然気付かなかったもん・・・」
 
 「そりゃ、要するに『木を見て森を見ず』というやつだな・・・」
 
 「ラッキーボーイにばかり注意が行ってたから、他のことがまったく目に入らんかった・・・と?」
 
 「まあ、そんなところだろう・・・」
 
 「ふふふ・・・相変わらずの自信家ね・・・でも、私はそんなラッキーボーイが好きなのっ! ・:*:(*´艸`*):*:

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