2022/02/10

異次元の男の涙(北京冬季オリンピックpart4)

フィギュアスケート男子

SPでは鍵山が2位、宇野が3位の好位置につけたが、「オリンピック三連覇」の偉業に挑んだエースの羽生はまさかの8位と、大きなハンデを背負ってFSを迎える。

 

宇野、鍵山の健闘が称賛に値するのは間違いないが、なんといっても多くの日本人の期待は羽生だ。

 

なにせ、あの圧倒的な存在感は、これまでの日本選手にはないカリスマ性が確かにある。前回オリンピックで「」の宇野などは、他の大会での実績も併せて考えれば本来もっと騒がれてしかるべき存在なのに、なにしろ「羽生という稀代のスーパースター」の前には蔭が薄い。ましてや、心境著しいとはいえ鍵山に至っては

 

「そんな選手がいたのか?」

 

というレベルだ。

 

この小柄な2人に比べれば、手足が長くスタイルも(顔も)抜群の羽生には、やはり他の選手にはない「カリスマ性」がある。

 

もちろん、スタイルが良かったり顔が良かったりというのはあくまで二次的な要素にすぎぬ。あれだけの才能を備え、それに相応しいだけの輝かしい実績を残しながらも、常に現状に満足せずにさらなる高みを目指す求道者のストイックさも兼ね備えたところに、彼の「カリスマ」たる所以があるのだ。

 

ここに、羽生のことを上手いこと表現した文章を引用する。

 

「容姿のいいスポーツ選手のリストの上の方には、必ず羽生結弦の名前がある。フィギュアスケートに興味のない人でも、検索用語のリストやショートビデオを通して彼を覚えている人は多いに違いない。その“少年のような”表情としなやかな姿から、羽生結弦は『漫画の中から出てきた氷の王子様』とも称される」

 

「顔は翡翠(中国で古くから人気がある宝石)のように美しく、姿かたちは松の木のようにしなやかで、軽々と羽ばたく様子は驚いて飛び立つ白鳥のようであり、しなやかな美しさは自由に動き回る龍のようだ」とかつて称えたことを紹介。しかし、羽生の本当の魅力は優れた容姿ではないと、記事では指摘した。

 

「羽生ファンは『美しさは長所の中では言及する価値が一番低い長所だ』と常に言う。翡翠のように美しく優しい『氷上の王子様』はほとんど『大魔王』と言ってもよいほどの実力の持ち主なのだ」

 

これが、なんとC国メディア「CCTV」の解説者の記事と言うから驚くではないか。

 

確かに、このような「異次元の存在」だからこそ、多くの日本人だけでなく、今や世界中と言っても過言ではない期待が集中してしまうのは自然の成り行きであり、またその大きな期待をプレッシャーではなく、エネルギーに変えてしまうことができるのが「異次元の男」たる所以なのである。

 

そして、この「異次元の男」は強靭なメンタルを持っている。もちろん、メンタルの強さというのは努力である程度はなんとかなるのかもしれないが、やはり生まれ持った才能が大きい。あの女のような優しい顔からは想像できないような、誰よりも強靭なメンタルを持つのも「異次元の男」たる所以である。

 

だからこそ、「SP8位」と得点差の現実を踏まえれば、最早「金」はおろかメダルも絶望的という、目の前に突き付けられた現実も忘れたかのように、多くのファンが

 

羽生なら、途轍もない演技で金を獲ってくれるのでは?

 

という幻想を抱いてしまうのも無理ないことであり、またそのような「」を見せてくれる唯一無二の存在ともいえた。

 

この「異次元の男」の方程式には、そもそも「リスクを回避して、少しでも順位を上げたりメダルを獲りたい」などというケチな考えは、おそらく爪の先ほどもなかったのではないか。これまで誰も成しえず、それだけに大きな期待の掛かっていた乾坤一擲の大技にリスク覚悟で挑んで来たのは、異次元の男のプライドからすれば当然すぎる選択で、そもそも我ら凡人とは根本的に発想が異なるのである。

 

もっとも、本人はかつて

 

「五輪は発表会じゃない。勝負の場所で勝たなければいけない」

 

という話をしていたらしいから、この決断はあるいはSP8位という結果が齎した産物かもしれないが、そもそも羽生が狙っていたのは「」のみであって、銀や銅はハナから眼中になかったろうし、「金以外なら、どれも同じ」くらいの考えではなかったか。実際に、表彰台の一番高いところで皆の視線を一心に集めてこその羽生であり、脇の低い段に遠慮そうに立つ姿は「異次元の男」にはまったく似合わず、イメージすら浮かばないではないか。

 

そしていまだ

 

「メダルは取れなかったけど、私の中では彼が一番」

 

などとワケのわからないことをいう「信者」が後を絶たないのも、彼が唯一無二の「異次元の男」だからなのである。

 

一方、「異次元の男」の陰に隠れて目立たなかった宇野、鍵山の両選手。こちらは日本人としてもかなり小柄だから、国際大会では一層小ささが際立つが、そんなハンデを跳ね返して会心のパフォーマンスを演じきってのメダル獲得だから、これは称賛に値しよう。この大舞台で、ついに頭の上の大きな重石が取れた両選手には、一層伸び伸びとした演技の活躍を期待したい。

 

鍵山は会心の「銀」、宇野は羽生に勝った喜びの一方、後輩に負けた悔しさはあるだろう。羽生は・・・勝負の世界は残酷だ

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