2003/06/14

モラトリアムpart2

You never get a second chance to make a first impression.

 これはアメリカの諺で

 「一度与えた第一印象をやり直すチャンスは二度とない」

 という意味である。

 アメリカは多民族で形成される国家だから、第一印象が非常に大事ということだ。

 アメリカでは学校を出たての新社会人が、アパートなどの集合住宅に住んだ場合、初任給の大部分を無理にも注ぎ込んででも、スーツや靴などファッションを整えて、新社会人に不似合いなくらいにパリッとした身なりを固めるという。

 アパートの住人だから、当然他は皆見ず知らずの赤の他人ばかりであり、またアメリカの場合は国籍や人種も様々な多民族国家だから、見るからにくたびれた格好をした新参者は、第一印象で「胡散臭いヤツ」と見られてしまうそうな。

 先の諺にもあるように、一旦そのような烙印を押されたなら、イメージの回復が大変に困難なのである。

 そこで安月給の貧乏人も、外から見えるファッションだけは惜しげもなく金をかける事で「立派な身なりをしているから」と信頼を得ることが大事ということらしい。

 こうした事情から、見た目だけは随分と立派ななりをしていたが、実際は貧乏人のとんでもない詐欺師だったりして、騙されるのである。

 対して、日本の場合はどうか?

 無論「第一印象」が相手に齎す重要性は、恐らく人間共通の本性のようなものだろうが、アメリカとは違いほぼ単一民族で形成される日本の場合は、第一印象もさることながら、さらに長いスパンでじっくりと評価される

 先のアメリカの例のように、いかに立派な成りをしていても、それだけでは信用をかちうることは出来ず、それどころか年齢や分不相応ななりをしていれば、寧ろ胡散臭く思われてしまいかねない

 学校出たての金髪のニーちゃんが、アルマーニなどで身を固めていれば

 「きっと、よからぬ事をして稼いだに違いない!」

 と疑われるだろうし、同様に若い女がヴィトンやエルメスなどをひけらかしていては

 「あの女は、おおかたオミズか風俗系やな」

 などと、眉を顰めて見られるのがオチなのである。

 逆に、第一印象こそみすぼらしかろうと、先に見たアメリカの例のように(余程、酷くない限りは)それだけで誰からも相手にされないということは、まずないはずだ。

 第一印象も重要とはいえ、あくまで性急に結論を急がず、じっくりと年月をかけて本質を見極めようとするのが「日本流」と言える。

 だから、結果的に

 「最初は貧乏臭いと思ったが、じっくり付き合ってみると案外と真面目で優しいし、いい人じゃないか」

 といった具合に、最終的には人間性が正しく評価されることになる例は枚挙に暇がないし、逆にアメリカではよほどドラマティックな出来事でもなければ、第一印象をずっと引きずってしまうことになりかねないのである。

 要するに、日本社会では幾ら第一印象がよくとも、それだけで全面的な信用を得るまでには至らないから、評価を焦ることは禁物だ。

 あくまで時間をかけて付き合う事で、本当の人間性が評価されるのである。


 が、これが企業の面接となると、そこには営利が絡んでくるだけに、やはりアメリカ流のビジネスライクな評価が主流となって、あくまで「第一印象」の壁が大きく立ちはだかってくるのが現実である。

 実際のところ、たかだか30分かそこいらの面接で、相手の「人間性」などというこれ以上はない複雑なものが、簡単に理解できるはずがない

 確かに人事担当者ともなれば、それなりに沢山の人間を見てきているだけに、一般人よりは人を見る目には肥えているとしても、所詮はうわべだけに過ぎぬ。

 どだい我々と同じ人間が、30分かそこいら話をしたくらいで、相手の人間性を理解するなどはまことに僭越きわまる。


 こうした思想から、何度NGを出されても 

 (なーに・・・たまたま見る目のないアホな節穴担当者が続いただけで、次にはきっと素晴らしい担当者が現れてオレの真価を見抜き、スパっと決まるハズに違いないのだ) 

 と相変わらずノー天気に構え、少しも反省する事がないから進歩もない。 

 かくて、学生気分抜けきらぬモラトリアムの行く手には、更なる厳しい世間の荒波が待ち受けていた。

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