最初のうちこそ恐縮の体だったが、まだやると宣言したわけでもないし、ビールを飲んでいるうちに次第にいい気分になってきて
(こっちから頼んだわけじゃないし、向こうが勝手にしたことだから、ワシャ知らん)
とばかり
(取り敢えずやってみて、ダメだったらやめればいいかな・・・?)
などと軽く考えつつ、半ばヤケクソ気味に食い散らかしていた。
その間も
「いやー、こんな良い人が来てくれるとは思わなかったなー。
この人なら、どこへ行っても女性に人気が出そうだねー」
すっかり顔を赤くしたオジサンは目を細めて、奥さんに対して絶賛するばかりである。
そんなこんなで、散々に呑み食べをした末に
「前向きに考えて、明日には返事をします・・・」
と答えておいたが、腹の中は半ば以上はやる方向に傾いており、オジサンの方も手応えありげな表情である。
そうして自宅に帰ると、若い女性に囲まれ尤もらしい顔をして「コンピューター占い」をしている姿を想像しながら、しばらくほくそえんでいた・・・
が、よくよく考えてみると、肝心なところを訊き忘れていた事を後悔した。
なにしろ人一倍デリケートな性質だけに、学生時代のような気心の知れた相手とならともかく、知らない人間とでは雑魚寝はおろか二人部屋の同室でさえ、断じて我慢出来ないのである。
(その点を今一度、よく確認せねば・・・)
と思いつつも、いざ雑魚寝だと言われた場合に今更断る億劫さを考えると電話に手が伸びず、気にはなりながらもそのまま放っておくと、当然の事ながら先方から電話が入った。
「どうです?
やってみる気になりましたかな?」
「いや実は・・・今更ながら一つお聞きしたいのですが、出張の時の宿泊ってのはどうなるんでしょう?」
恐る恐る切り出したものの、相手は至極あっさりと
「ああ、それは心配無用。
宿舎は総て、ちゃんとしたホテルを抑えてあるからねー・・・勿論、出張費用も宿泊費等は、総てこちら持ちで・・・まあ、何人かで雑魚寝にはなるけどね・・・」
「雑魚寝って・・・確かその仕事は、私が一人でやると訊いていたような・・・」
「いや一つのデパートには一人だけど、幾つかのデパートを分担してだからね。
向こうにもウチと同じような業者があって、そこと提携しているんだけどね、そのメンバーたちと雑魚寝だな。
なーに、みんなアナタと同じようなザックバランな若い連中ばかりだし、すぐに友達になれるだろうから、心配は無用さ・・・」
(いや、そういう問題じゃなくて・・・)
「う~ん・・・雑魚寝は、チト勘弁願いたいのですが・・・」
「そうかー、雑魚寝は嫌かー・・・仕事そのものは最新のコンピューター占いだし、若い女性が相手だし色々行けて面白いと思うんだけどなー。
雑魚寝だけは、何とか我慢して出来ないかな・・・?」
確かに雑魚寝さえなければ、魅力を感じる仕事なのだが・・・
「個室なら、喜んでやりますが・・・」
若いだけに、遠慮がなかった。
「それは無理だなー。
一人だけ個室というのはね・・・予算もあるしね・・・」
「では申し訳ないですが、やっぱり雑魚寝は無理かな・・・この前は、あれだけご馳走になってしまってからで大変恐縮ではありますが、そういうわけで今回は辞退させていただきます・・・」
この時ばかりはさすがに、心底恐縮しきりなのだった Ψ(ーωー)Ψ
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