演奏時間が45分前後の大曲である。
第1楽章のみで20分以上を要するが、ソナタ形式であり、第2楽章は変奏曲、第3楽章はロンドと、古典的な形式を踏襲している。覚悟のいる大曲だからと言って、聴く方は構える必要はまったくなく、むしろ全体的には素直な明るさに満ちている。
第1楽章は、ティンパニがD(レ)を四分音符で5回連打して始まる。
なんて斬新な始まり方だろう!
これが全体を通して、最も重要な要素である。形を変えて色々な楽器に何度も出てくるから、それを発見するだけでも面白い。
まず伸びやかで美しいニ長調の第一主題をオーボエが提示すると、早くも冒頭の変形が第1ヴァイオリンから始まり、弦楽器に次々現れる。続いて木管楽器に上昇音階の楽想が出て、空気が暖まり静まると見せかけ、突然これまでと対照的な性格の音楽が変ロ長調で鳴り響く。
この意外性!
200年前の聴衆の大半は、ここで置いていかれたかもしれない。
しかし、すぐに第二主題の明るい旋律が優しく降り注ぐ。安心していると急に短調の響きとなり、ヴィオラとチェロの三連符が始まると音楽が動き出す。
新しい形だ。
実は後で、独奏と弦楽器とで同様の関係が出てくるが、ここはその予告編とでも言おうか。
やがて第一・第二主題に親近感のある堂々たる楽想が、第1ヴァイオリンに現れ低弦部がこれに応える。ここでは、第2ヴァイオリンとヴィオラに注目。16分音符をせっせと刻む伴奏だが、これが音楽に推進力を与え生き生きとさせる重要な働きを担う。
これぞベートーヴェンだ。
こうしてようやく前奏が終わる。
ベートーヴェン中期を代表する「傑作の森」時代の作品のひとつ。ベートーヴェンは、ヴァイオリンと管弦楽のための作品を他に3曲書いている。2曲のロマンス(作品40および作品50)と、第1楽章の途中で未完に終わった協奏曲(WoO 5)がそれに当たるが、完成した「協奏曲」はこの1作のみである。
しかし、その完成度は素晴らしく、メンデルスゾーンの作品64、ブラームスの作品77とともに『三大ヴァイオリン協奏曲』と称されたり『ヴァイオリン協奏曲の王者』とも称される。
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を「メン・コン」と呼ぶのに対し、この作品を「ベト・コン」(ベートーヴェンのコンチェルトの略)と呼ぶことがある。しかしメンデルスゾーンとは異なり、ベートーヴェンの場合は一連のピアノ協奏曲も本作品と同等に愛好されていることから、ヴァイオリン協奏曲のみをして「ベト・コン」と呼ぶことは決して相応しくない。
この作品は、同時期の交響曲第4番やピアノ協奏曲第4番にも通ずる叙情豊かで伸びやかな表情が印象的であるが、これにはヨゼフィーネ・フォン・ダイム伯爵未亡人との恋愛が影響しているとも言われる。
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