2008/02/02

携帯(東京劇場・第4章part2)

 次に訪れたDという会社の面接では、営業が5人も出てきたのには驚いた。 さらに面接中にも外回りから帰ってきた営業が、23人挨拶に訪れるなどで、都合10人近い相手から名刺を貰った。最近はIT業界も全体的に若返っており、営業も20代や30代の前半という年齢層が多かったが、D社の場合はいずれも例外なく40歳は超えていそうなベテラン揃いで、上は5060代も何人か居るようだった。

 

それはともかくとして、他の多くの会社と同じように、営業はそれぞれ独自の商流を持っているため、それぞれ個別に案件紹介のメールが流れてくる。当然の事ながら、D社以外に面接に廻った企業からも案件紹介はあったが、D社の沢山いる営業からだけでも、数件の面接依頼が舞い込んできていた。

 

D社には

 

「他社とも並行して活動しているため、どれで決まるかはタイミングや条件に左右されます」

 

と最初に断っていたし、またD社以外の企業にも予め同様の申し入れをしていた事は、言うまでもない。そのスタンスについては、D社の方でも問題ないということだった。

 

翌日から、早速という調子で何人もの営業から、次々と案件情報が舞い込んできた。案件情報がたくさん舞い込んできても、スキル的に合わなかったり、或いはこちらの希望している業務内容から、かなりズレがあるものが多いのは、他社と同じである。

 

その中で一つ、食指を動かされるものがあって面接に赴いた。ユーザーは某金融系で、元請けは大手通信キャリアNグループの某社だったが、面接の相手が時実に感じの悪いヤツだった。

 

面接前には、携帯電話の着信音はOFFにしておくのが常だったが、この時はたまたま着信音を切るのを忘れていて、間の悪い事に面接中に携帯が2度も鳴ってしまうという不手際があった。が、相手の偉そうな態度にムカついていたため、わざと音を切らなかったら、二度目の音が鳴ってすぐに

 

「それでは面接は、これにて・・・」

 

と、当てつけのように相手が立ち上がったのは、むしろ好都合だった。

 

 D社からは、さらに面接依頼が次々に入ってきていた。新たにネットワーク設計・構築の話が出てきて、面接の段取りを済ませると、先のNTT某の件を紹介して来た営業が、代わって電話に出てきた。

 

「先日のNTT某社の面接の元請け営業から

『今後、面接中は携帯が鳴らないように、必ず電源を切っておいてくれ』

というクレームが来ましたよ」

 

「ああ、失礼・・・忘れていました」

 

「気をつけて下さい」

 

「はい・・・ところでその件ですが、最初に訊いていた話とかなり食い違いがありましてね。携帯は確かに失敗でしたが、そんなことやNTT某の担当者が感じが悪く、面倒だったのでそのままにしておきましたが・・・」

 

「それとこれとは、話が違うよ。事前に聞いていた話とギャップがあったのは申し訳ないが、携帯の電源を切る事は社会人としてのマナーだから、守ってもらわないと困りますな」

 

「社会人としてのマナーを守るのは、あくまで社会人としてのマナーを備えた相手に対する場合だけと思っていますが・・・あと 『今後は必ず』ということですが、再度あの会社の面接を受けるつもりはありません」

 

「了解しました・・・が、今後は気をつけてください」

 

「そんなに心配なら、さっきの別の営業さんから来た話もキャンセルしますか?

敢えて名前は出しませんが、貴社の某営業の方から面接依頼が来てから、二度も変な形でキャンセルになった経緯がもありました。これは、マナーに反してないのでしょうか?」

 

実際にD社の某営業から何度か面接依頼が来て、日程調整を進めていると連絡が入った後から

 

「他社の技術者で決まってしまった」

「案件自体が消滅してしまった」

 

との不可解な理由で、二度も話が消滅した経緯があった。これまで不審の念を抱きながらも、敢えてクレームは出さなかったのだったが、ここでネチネチとやられた事で怒りが爆発した。

 

 「御社にしても他の技術者は沢山いるんだろうし、そうまで言うならワタクシに仕事を紹介していただかなくても結構ですよ。私としても、これ以上見当のずれたヤツの相手などはしてられない」

 

「わかりました・・・今後の事はともかくとして、すでに決まっている次の面接は出てください。そしてその時は、先の注意を守ってください」

 

次の面接の結果次第では、この会社との付き合いには見切りをつけるつもりだった。仕事が決まる決まらないは、その時々のタイミングに左右される部分が大きいが、紹介元となる会社は他に幾つもあった。

 

その後、他社の面接も並行して進めている時に、D社のK氏という新たな営業から案件の紹介があり、品川駅で待ち合わせる。直ぐに別の会社の営業T氏を紹介され、その取引先となる元請け会社の担当と面接になった。面接は当初、元請け会社の営業と役員との間で行われたが、途中から現場のリーダーがやって来て、詳しい業務説明を受けた。

 

内容は、大手通信キャリアの大規模ネットワークの基幹部分を新しい拠点に移すという、非常に大規模な新規のプロジェクトであった。まだ発注したばかりで、これから設計フェーズに入り、構築フェーズで収容変更を行った後、運用部門に引き渡すまでの一連のプロセスに関して

「一人称的にこなせるような人材を求めている」

という事だった。

 

ネットワーク系の仕事としては難易度の高い内容であり、これまでの経験値からすればオーバースキルである事は確かだった。

 

 感じたままを相手のリーダーに伝えると

 

「経歴から見ると、いくらかオーバースキルのように思いますが、これまで意欲的に新しい分野にチャレンジしてこられていますし、常に向上心を持たれているところが素晴らしいと思います。私もそんなにスキルが高くないので、一生懸命に一人で調べながら頑張っているところで、一緒に調べながらやっていただける人に来てほしいと思っています。そういう意味では、まさに僕が上の者に伝えた通り、理想的な方じゃないかと考えています」

 

と、なぜかべた褒めだった。

 

ともあれ面接が終了して、営業のT氏に誘われランチをともにすることになった。

 

「良い感触だったし、決まる確率はかなり高いと思うよ。決まったら、やる方向でいいですね?」

 

「確かに業務内容には、大いに魅力を感じはします。ハイレベルな感じなのが、幾らか引っかかりますが・・・」

 

いずれにしても、今の元請会社の面接を通った際には、クライアントとなるNT社の最終面接があるため、不安要素があればそこでぶつけてみればいい、という事だった。

 

「他に、なにか気になる点はある?」

 

「他には・・・N社というと、ひょっとして時間清算になりますか?」

 

こう聞いたのには、もちろん訳があった。実は、直近でもN社の仕事をしていたのだが、その時が時間清算だった。単価が、殆ど下限ギリギリの設定だったが

「忙しい現場だから、勤務時間で稼げますよ。毎月、200くらいは行くんじゃないかな?」

と、事前に営業からは聞いていた。単価的には、月に180時間を超えないと設定した月額単価を下回ってしまう計算だったが、200はともかくまず180を下回る事はないだろう、と踏んでいたのだ。

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