2008/02/03

誤算(東京劇場・第4章part3)

ところが蓋を開けてみれば業務に波があり、納期前の忙しい時は夜遅くなったが、そうでない時は定時を過ぎると、担当者から

 

「今日はあまりやる事がないので、早めに上がってください」

 

と言われる始末だった。

 

やる事がないというのは、あり得ない話だ。今はやる事がなくても、今後動いていくプロジェクトがあるのだから、それに向けた準備の調査や下調べなど、幾らでもやっておく必要がある事はあるはずなのだ。が、寝惚けたような担当者の目には、単に「残業代稼ぎ」にしか映ってなかったらしい。

 

そのような説明をしても無駄であり、また説明するも面倒でもあったし、彼にしても上からそのように命じられているに過ぎないのだろうから、必要性が目に見えるような仕事がない時には、定時に近い帰社を余儀なくされた。その結果、最低ラインの「180時間」に到達しない月が多くなり、途中で単価を上げて貰いどうにか(自分の考える)トントンにまで持っていったという、苦い経緯があった。

 

このような経緯を掻い摘んで説明し

 

「それだけに時間清算の仕事は、正直言って気が進まないのです」

 

と告げると

 

「うーん・・・お察しの通り、過去の経験から見てN社の仕事は、時間清算になると思う。ただ単価的には問題ないと思うし、180くらいは行くと思うけどなー。  その辺りは再度、確認しておくよ」

 

という事で、この日は別れた。

 

その日のうちか、翌日にも連絡が入るとの事だったが、翌金曜と週末は何の音沙汰もないまま、月曜日を迎えたところでT氏から直接、二次面接の連絡が入った。

 

「金曜日に連絡があると思い待っていたのですが、音沙汰がなかったので・・・」

 

「えっ、そう?

D社のK氏には、連絡をしたんだけどな・・・明後日の水曜日だけど、N社の面接が入ったよ。  今度がエンドだから、これに通れば決定だ」

 

「この前に話した時間清算の件について、固定給は無理でしたか?」

 

「やはりNの場合は、時間清算でないと無理みたいだよ」

 

「そうなると、条件が合うかどうかわかりませんが・・・」

 

「それだけど・・・やっぱりNの面接後でないと、単価の提示が出ないんだよね。 面接での評価もあるしね」

 

「とすると面接に出たとして、結果が出た後で条件によっては辞退というケースもありえますが、そこは大丈夫ですね?」

 

実際、最終面接で先方がOKの回答を出した場合、クライアントは無条件で来るものと思っているだけに、その段階に至って断るのは最悪とされていた。それまでに単価の提示をしていないにもかかわらず、である。

 

「そういうのは困るという事であれば、この際辞退しようと思いますが」

 

「いやいや。それは全然ない。仮に面接に通ったところで、単価が合わなければ幾らでも断ればいいので、今の段階で面接そのものを辞退される方が、よほど困る」

 

「それならいいですが・・・前にも話した通り、前回の経緯があるので時間清算であれば、こちらの単価設定は結構高くなるので辞退もありえますよ」

 

と、事前に釘を刺しておく。

 

そうして指定された水曜日に面接に赴くと、クライアントのN社からは部長とPMともう一人が出てきて、こちら側は面接前に「私がフォローします」と言っていた、A氏が同席した。

 

面接自体は特にどうと言う事はなかったが、自分以上にA氏がアピールをしていた。

 

面接が終わると、A氏から喫煙所に誘われる。面接後、結果が出ないうちに元請会社の担当者から、このように誘われて話をするのは異例だった。

 

「結果はまだわかりませんが、OKだったらやってみる気はありますか?」

 

「正直、レベルが高いので出来るかどうかじっくり考えて見ます」

 

「でも方向性としては、かなり一致してるんじゃないですか?」

 

「方向性はピッタリですよ。それは間違いない」

 

「じゃあ、考える事もないと思いますがね。わからない事は調べて解決していく。 それしかないでしょう。誰しもわからない事はあるわけで、その辺りは私もフォローしていくし、私としては一緒にやって行きたいという気持ちは、変わりません。勿論、結果がどう転ぶかは、まだわからないが・・・」

 

「私も、前向きに考えますよ」

 

「問題は、部長ですね・・・部長がどう判断するかだな・・・私の方でも、フォローしときますよ」

 

と、担当者は熱心に言った。

※後でわかったことだが、この時のN社の面接担当者は、部長が東大卒、PMが京大法卒、PLは京大卒で「CCIECisco最上位資格所有」という凄い顔ぶれだった。

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