2008/02/18

喜び(東京劇場・第5章part3)

T氏と別れて中村屋を出ると、次第に嬉しさがこみ上げてくるのを抑えられなくなっていた。

 

勿論、金が総てではない。自分としては、これまでも仕事を探す上で最も重要視して来たのは、あくまで「自分の考える方向性にマッチするか」であり、今もそれは変わらない。いくら単価が良くても、方向性が著しくずれた仕事などは、受けるわけがない。

 

例えば「3」と呼ばれるような仕事に従事すると、普通の会社勤めに比べ遥かに高給を手に出来るらしい。ごみ収集の仕事では年収1000万近くを稼げるというし、給食おばさんも145時間労働で休みも多いのに、結構な高収入を稼げるそうだ。

 

一般の会社勤めで1000万近くを稼ぐとなると、かなりの一流上場企業でも40歳過ぎくらいにならなければ難しい(TOYOTASONYでも、1000万弱程度)ことからすれば、これは「異常」ともいえる高待遇だ。

 

それほど大した技術も要らないだろうに、優遇され過ぎていると思うが、例えばごみ収集の仕事であれば機械に巻き込まれて指を切ったり、車に轢かれそうになったりといった危険と背中合わせだろうし、ゴミの匂いも体に染み付いてしまって、簡単には取れないだろう。

 

そもそも「3K」と呼ばれる仕事をやりたがる人があまりいないだろうから、必然的に需要と供給のバランスや危険手当等の要素が絡み、こうした破格の設定になっているのである。

 

し尿処理施設とか、火葬場の勤務もしかりである。中には

「そのような人が嫌がる仕事は、自分が進んでやるのだ」

という奇特な信念を持つ人もいるのかもしれないが、例えばリストラの憂き目にあったものの大した技術も能力もなく、不承不承にこうした仕事に従事しているような人も、少なくないかもしれない。

 

確かに自分がそのような仕事はしたくないが、誰かがやってくれないと絶対に困るのがこうした3Kの仕事なのであり、それだからこその「特別待遇」といえる。

 

ワタクシなら例え年収2000万でも、こうした仕事は断じてやらない。なぜなら自分の考えている方向性と、まったく違うからである。

 

その証拠に、絶対にありえない設定だが、例えば「三菱商事で年収2000万の商社マン」に採用されたとしても、これも絶対にやらない。理由は同じく、自分の考えている方向性とまったく違うからでもあり、また自分が「年収2000万の商社マン」の働きが出来るとは、到底思わないからだ。

 

では「大手企業役員で、座っているだけで年収3000」は、どうか?

これは上の二つに比べれば、かなり心が動きそうだ。商社マンのような高いスキルは必要ないし、3Kよりは楽そうである。だが迷っても結局、これも受けないだろう。なぜなら、技術者としての達成感がないからである(これだけの収入があれば、それを元に起業すればいいだろうといった設定は、ここでは除外する)

 

ところが、である。今回の場合は、まさに「自分の考える方向性」にほぼ一致した上で、しかも収入が大幅にアップする(勿論、ン千万とは雲泥の差だがw)のだから、こんなにいいことはないのである。

 

最も重要なのは内容の充実ではあるが、同じ内容であれば多いほうが良いに越した事はないのは、誰しも同じだ。しかも「こんなに貰ってもいいものか?」と、値下げ要求をするくらいの上がり方なのだから、こんなに旨い話はない。

 

あまり旨すぎるくらいで、通常なら裏があるかと勘ぐってしまいそうなところだが、今回の場合は「裏」が総て見えてしまった上での契約だから、そのような心配もない。

 

「人間とは、慣れの生き物である」とはよく言ったもので、最初こそ

 

「こんなに沢山貰って、本当にいいのだろうか?」

 

などと、柄にもなく大いに気が引けていたものだったが、次第に

 

「これはうまい事になった」

 

という喜びに包まれていくことになった ( *^艸^)ムププ

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