口語訳:そこで速須佐之男命は天照大御神に「私の心が清かったから、私が生んだ子は優しい手弱女だった。つまり私の勝ちだ。」と言って、勝ち誇った勢いで、天照大御神の作っていた田の畔を切り崩し、溝を埋めてしまった。
また大御神が大嘗を召し上がる殿に、糞をしてまき散らした。だが天照大御神はとがめずに、「私の弟が糞をしたのは、酔っぱらって吐き散らしたのでしょう。また田の畔を切り崩し、溝を埋めたのは、その場所が田にできるのにと惜しんだのでしょう」とかばったが、その悪行はやまず、見ていられないほどであった。
天照大御神が忌服屋にいて、神御衣を織らせていたとき、その服屋の屋根に穴を開け、逆剥ぎにした天斑馬をそこから落とし入れたところ、天衣織女は驚いて、梭で陰部を突いて死んだ。天照大御神はこの様子を見ておそろしくなり、天石屋戸にこもってしまった。
古事記
誓約で身の潔白を証明した建速須佐之男命は、高天原で、勝ちに任せて田の畔を壊して溝を埋めたり、御殿に糞を撒き散らしたりして乱暴を働いた。だが、天照大御神は「クソは酔って吐いたものだ、溝を埋めたのは土地が惜しいと思ったからだ」と須佐之男命をかばった。
しかし、天照大御神が機屋で神に奉げる衣を織っていたとき、建速須佐之男命が機屋の屋根に穴を開けて、皮を剥いだ馬を落とし入れたため、驚いた1人の天の服織女は梭(ひ)が陰部に刺さって死んでしまった。ここで天照大御神は見畏みて、天岩戸に引き篭った。高天原も葦原中国も闇となり、さまざまな禍(まが)が発生した。
そこで、八百万の神々が天の安河の川原に集まり、対応を相談した。思金神の案により、さまざまな儀式をおこなった。常世の長鳴鳥(鶏)を集めて鳴かせた。
鍛冶師の天津麻羅を探し、伊斯許理度売命に、天の安河の川上にある岩と鉱山の鉄とで、八尺鏡(やたのかがみ)を作らせた。玉祖命に八尺の勾玉の五百箇のみすまるの珠(八尺瓊勾玉・やさかにのまがたま)を作らせた。
天児屋命と布刀玉命を呼び、雄鹿の肩の骨とははかの木で占い(太占)をさせた。賢木(さかき)を根ごと掘り起こし、枝に八尺瓊勾玉と八尺鏡と布帛をかけ、布刀玉命が御幣として奉げ持った。天児屋命が祝詞(のりと)を唱え、天手力男神が岩戸の脇に隠れて立った。
天宇受賣命が岩戸の前に桶を伏せて踏み鳴らし、神憑りして胸をさらけ出し、裳の紐を陰部までおし下げて踊った。すると、高天原が鳴り轟くように八百万の神が一斉に笑った。
これを聞いた天照大御神は訝しんで天岩戸の扉を少し開け、「自分が岩戸に篭って闇になっているのに、なぜ、天宇受賣命は楽しそうに舞い、八百万の神は笑っているのか」と問うた。
天宇受賣命が「貴方様より貴い神が表れたので、喜んでいるのです」というと、天児屋命と布刀玉命が天照大御神に鏡を差し出した。鏡に写る自分の姿をその貴い神だと思った天照大御神が、その姿をもっとよくみようと岩戸をさらに開けると、隠れていた天手力男神がその手を取って岩戸の外へ引きずり出した。
すぐに布刀玉命が注連縄を岩戸の入口に張り、「もうこれより中に入らないで下さい」といった。こうして天照大御神が岩戸の外に出てくると、高天原も葦原中国も明るくなった。
八百万の神は相談し、須佐之男命に罪を償うためのたくさんの品物を科し、髭と手足の爪を切って高天原から追放した。
日本書紀
『日本書紀』の第七段の本文では、素戔嗚尊が古事記と同様の暴挙を行う。最後には天照大神が神聖な衣を織るために清浄な機屋(はたや)にいるのを見て、素戔嗚尊が皮を剥いだ天斑駒を投げ込んだ。すると、天照大神は驚いて梭で自分を傷つけた。このため天照大神は怒って、天石窟に入り磐戸を閉じて籠ったので国中が常に暗闇となり昼夜の区別もつかなかった、とある。
そこで、八十萬神(やそよろづのかみ)たちは天安河の河原に集まり、祷(いの)るべき方法を相談した。以下が神のとった行動である。
思兼神:深く思慮をめぐらし、常世之長鳴鳥(とこよのながなきどり)を集めて長く鳴かせた。
手力雄神:(思兼神の指示で)磐戸の側(そば)に立つ
天児屋命と太玉命:天香山(あめのかぐやま)の繁った榊を掘り起こし、上の枝には八坂瓊之五百箇御統(やさかにのいほつみすまる)をかけ、中の枝には八咫鏡あるいは眞経津鏡(まふつのかがみ)をかけ、下の枝には青い布帛(ふはく)と白い布帛をかけ共に祈祷をした。
天鈿女命:手に蔓(つる)を巻きつけた矛を持ち、天石窟戸の前に立って巧に俳優(わざおさ)を作す(見事に舞い踊った)。また、天香山の榊を鬘(かづら)としてまとい蘿(ひかげ)を襷(たすき)にし、火を焚き桶を伏せて置いて、顕神明之憑談(かむがかり)をした。
天照大神はこれを聞いて、「私はこの頃、石窟に籠っている。思うに、豊葦原中國は長い夜になっているはずだ。どうして天鈿女命はこのように笑い楽しんでいるのだろう」と思い、手で磐戸を少し開けて様子を窺った。すると手力雄神が天照大神の手を取って、引き出した。そこで天児屋命と太玉命が注連縄を張り渡し、「再び入ってはなりません」と申し上げた、とある。
話の流れは古事記と同様だが、細部に若干の違いがある。特に、天鈿女命は「巧に俳優行す」とあるのみで、おどけたしぐさや、神々が笑ったという描写はない。
その後、神々は罪を素戔嗚尊に負わせ、贖罪の品々を科した。それ以外に髪を抜き手足の爪を剥いで償わせたとも言う、とある。こうして、素戔嗚尊は高天原から追放された。
出典 Wikipedia
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