2005/11/23

技術審査(Gシリーズ第6章)後編

 久しぶりにRFC(日本語版)を開いてみるが、相変わらずヘタクソな翻訳のせいもあって、ワケがわからない記述のオンパレードだ。しかしながら、これが理解できない事には話にならない。RFC本文にWebで検索した解説書と、自腹を切って買った解説本を見比べながら、久しぶりに一週間(実質的には3日くらいか)グッタリと疲れるまで集中して勉強をした。

しかしながら怠け者のサガか、土・日に家で勉強する気にはなれず、不安を抱えたまま遂に本番を迎える。ところが、どういう風の吹き回しか(恐らくは、リーダーのN氏にケツを叩かれたか)、99%トンズラを決め込むと思われた無責任かつ薄情者のR氏が

「それでは始めましょう!」

と、自ら号令を掛けたのにはビックリだ。

これ幸いと連れ立ってサーバ室へ行き、証明書発行を行う。過去に何度も経験があるR氏とはいえ、久しぶりに行うとあって

「イカン、オレもすっかり忘れてるよ・・・落ち着け、オレ・・・」

と自信なさげなのが頼りなかったが、こちらに輪をかけたズボラで陽気な性格(と言うよりは自信家だけに、手順は忘れても能力頼みでどうにかなるという自信の裏付けで)、それだけ忘れていながら緊張感がまったくないのに救われた

手順書にしたがってWindowsを操作するだけだから、スキル的には並ぶ者なきR氏にとってはもとより、こちらにとっても思ったよりは簡単で、これに関しては拍子抜けするほどに呆気なく終わった。

そうして初日は無難に切り抜けたが、二日目からはそろそろ手順が複雑になってくる。ところが二日目の朝起きると、深夜の4時過ぎにR氏から携帯メールが入っていた。

「深夜に機器の障害対応で出たため、今日は昼からの出勤になります・・・わからないところはNさんに訊いて、昨日の続きから行ってください」

驚き半分の中にも、慌しく現場に到着した。

リーダーのN氏に

「Rさんが今日は午後からの出勤なので、Nさんに訊いてくれとメールが来ましたが・・・」

と切り出すと

「ああ、訊いているよ」

と、いつものように落ち着き払ったN氏は答えた。

今は管理的な立場となり現場からは退いていたN氏だが、5年前に始まったこのプロジェクト構築時からの唯一の生き残りだから、技術審査はこれまで誰よりも経験豊富である事はいうまでもない。というより何より、そもそも技術審査で使う環境の設計に携わった中心人物がこのN氏であり、N氏の設計に基づいて様々な実証テストを行って来たのが、N氏の後輩でワタクシの前任者だったM氏であった。それだけに、この環境の事については誰よりも詳しいのがN氏である事に疑いはない

「まず今日は何をすべきか・・・というところから整理してみようか」

と言いながら余裕綽綽のN氏は、得意のお手玉で遊んでいる。お手玉の軽快な音を背後に聞きつつ手順書を引っくり返し唸っていると、お手玉が後頭部を直撃した。

「イテっ!」

「あ、ゴメンゴメン・・・手が滑った」

「わざとやったでしょ?」

「わかった?」

「やっぱり・・・」

「じゃあ、そろそろ始めるか・・・」

一年以上も業務から離れていても、さすがにN氏の記憶は確かで、R氏が居る時よりも遥かにスムーズに進展した。こうなると、このまま来ないと思っていたし、寧ろ「来ない方がよかった」R氏だが、なぜか午後一番に張り切って出勤して来た。
 
自分が発行した電子証明書、そして相手が発行した電子証明書を解析していかなければならない。この部分は特に政府系機関としての基準が問われる部分だけに、どんな細かい間違いも許されない精密な仕事なのである。

ここは先に経験豊かなR氏の方でチェックを入れてもらう傍らで、自分自身もチェックを入れて最後に両方を付き合わせる。ASN.1の解釈でわからない部分はRFCに当たり、それでもわからない時はR氏に訊く事もあったが、逆にR氏の方が明らかに間違っている箇所も幾つかあり、その都度指摘すると

「アカン・・・しばらくやってないから、もうボロボロや・・・ちなみに、にゃべさんはどう解釈してるの?」

といった調子で、いつの間にか後ろで見ていたリーダーのN氏から

「オイオイ、Rさんがにゃべさんに訊いてて、どうするんだよ・・・」

と怒られる始末で、もはや二人のレベルに大差はないように思えた。

人間とは不思議なものだ・・・と、つくづく思う。あれだけ周囲から「やれやれ」とやかましく言われながらも、必要に迫られるまでは仲々やらないものなのだったが、いよいよやらざるを得ないところに追い込まれれば僅か三日程度というごく短期間でも、このように一生懸命に覚えてしまうものなのである。

当初は、幾ら読み返しても理解できなかったRFCASN.1のあのワケのワカラナイ文書や文法を、この短期間で殆どマスターする事が出来た「火事場の馬鹿力」は、自分でも信じられないくらいだった。

勉強家で、激辛口のK君も

「にゃべさんが・・・珍しくいつの間にか、かなり勉強してたんですね・・・」

などと感心していたが、実のところは覚えようという余裕まではなく、あくまでも業務に支障を来たしたり恥を掻いてはマズイ、という一心のみに明け暮れた数日間であった。

しかしながら、この難物さえマスターしてしまえば元々、現場では最も技術力の図抜けたR氏とそれに匹敵するワタクシのコンビだけに、この後も予想外にトントン拍子で事が運んだのも不思議ではない。

その間、業務アプリケーションの不具合に関するベンダーとの対応や、ネットワーク機器の入れ替えに伴うトラブル対応に加え、F/Wルールの見直しといった障害案件も2人で手分けしてこなしながら、互いに喧嘩を繰り返しながらも予定の1週間を大きく前倒しして、4日目の途中で総ての工程を無事に終えた。

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