学生時代のこと。 冬の料理の定番のおでんについて、母親が
「おでんは、一番楽だわー。おでんの素と具を土鍋にぶち込んだら、後は煮込むだけだからねー」
と、よく口にしていた。
当時、おでんは、あまり好きでなかったので
「また、おでんかよー? 手抜き手抜き・・・」
などと、酷い事を言っていたものだ ( ´∀`)タハ
それはともかく、夕方ごろになると自転車で通り過ぎる見も知らぬ家庭から立ち上ってくる、あの夕餉の香りは胃の腑を刺激されるとともに、えもいわれぬような郷愁を誘われるが、カレーや煮物などと並んで特に郷愁を掻き立てられるのが、あの多くの具の種類の匂いが混在している旨そうなおでんだ。
ところで秋の京都などへ行くと、屋台でお馴染みとなるのが甘酒とおでんだが、関西では「関東煮」(「かんとうだき」と読むらしい)というのが一般的である。
そういえば名古屋でも、関西同様に「おでん」よりは「関東煮」と呼ぶ事が多かったような記憶がある。食の本場を自認する関西の人々が、何故にわざわざ「関東」という名称を冠して呼ぶのか、というところを不思議に思って調べてみた。
<おでんではなく、あくまで「かんとだき」・・・大阪では、おでんのことを「関東煮」と呼ぶ。「かんとうに」ではなく「かんとだき」である。「かんと」は関東を早口にした大阪弁で「だき」はアラ煮(あらだき)などと同じ「煮物」の意味だ。大根を炊く、菜っぱを炊くなど、関西では煮ることを「炊く」と言うことが多いのである。
今では大阪でも、お店の看板やお品書きに書かれているのは、どちらかというと「おでん」の呼び名が主流だが、大阪人にとって郷愁のある呼び名はやはり「関東煮(かんとだき)」である>
<「関東煮」は、江戸時代末期に江戸で流行した「煮込み田楽」が、大阪に伝わったものである。関東から来た料理なので「関東煮」と、ストレートにネーミングしてしまうところが「カッコつけてもしゃーない」という大阪らしいところだ。ちなみに「おでん」という呼称は、宮中の女房言葉が一般民衆にも広まっていったもので、語源はもちろん「田楽」から来ている。
室町時代に生まれた「田楽」は、串刺しにした豆腐に味噌をつけて焼いて食べたのが始まりで、次第にコンニャクや里芋も使われるようになり、これを醤油味で煮込んだ「煮込み田楽」が江戸で流行した。屋台や茶飯屋で手軽に食べられる、庶民のファーストフードとして発達していったわけだ。
江戸末期に隆盛を極めたおでん屋だが、関東では明治に入り次第に廃れ殆ど省みられないメニューになっていった。これが大正12年の関東大震災で、被災者向けの炊き出しにと関西から「関東煮」がもたらされ「ディスカバーおでん」と相成った。東京でもおでんの老舗といわれる名店が、関西風の飲める薄味おダシになっている事が多いのは、この時の「逆輸入現象」に負うところが大きいといわれている>
さて、どちらかといえば関西風の食文化に近い名古屋だが、このおでんの味付けでは「みそ味」という独特の文化がある。名古屋以外の地区では「味噌田楽」に倣って「味噌おでん」などと呼称しているケースを時折見かけるが、ワタクシなんぞの感覚では
「おでんと言えば、わざわざ断らなくても味噌が当たり前じゃないか」
となるわけだ。ところが、東京の人にその話をしたところ
「おでんに味噌って、どうやって食べるの? 味付けなしで、そのまま味噌を付ける?」
「バカモノ! 元の味がなくては、いくら味噌を付けたって旨くないだろーが。普通のしょうゆ味の関東煮に、赤味噌をつけて食べるのだ」
「なんで、わざわざ味噌なんか・・・しょうゆの味が、付いてるのに・・・」
「あれだけでは、味が薄くて寂しいでしょ」
「だったら辛子だろ・・・フツーは」
言われてみれば、関東では当たり前のように辛子を付けて食べているようだ。
みそ味が当たり前の名古屋では、辛子はあまりメジャーではなかった(今はどうかわからないが、少なくともワタクシは東京に出て来るまでは、おでんに辛子を付けて食べたり、そのようにして食べている人を見た記憶がない)
コンビ二などでも、おでんをレジに持っていくと店員が
「味噌ダレにしますか? それとも辛子にしますか?」
と訊いてくるのが当たり前で
(イチイチ訊かんでも、黙って味噌を入れておくのが常識だろーが)
などと腹の中で毒づいていたくらいであり、また店員によってはみそダレは訊くまでもなく入れておいてから「辛子は、お付けしますか?」と訊いてくるのもいるくらい味噌ダレが当たり前で、寧ろ辛子を使う方が変わっていたのである。
辛党のワタクシなどは、味が染み付いて真っ黒になったおでんでも満足できず、あのコンビ二の小さいみそダレでは足りずに、籠においてある時は三袋くらい持って来るが、ない時は「二つ入れといてね」などと、わざわざ注文を出すくらいだ。
しょうゆ味でだしの染み込んだおでんの上に、赤味噌をベチョベチョと付けてかけて喰らう。これこそ、おでん(関東煮)の正しい食べ方なのである。
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