2006/12/17

プッチーニ『トスカ』(3)

 


トスカが扱う題材は、あまりにも現実的で生々しい。愛し合う二人に、共和派と王党派の政治的争いが絡まり、そこに権力者の生々しい欲望が覆い被さるという、まさに「日常」の出来事がテーマとなっている。そしてヒロインのトスカは、これまたプッチーニが愛してやまなかった薄幸の悲劇の女性である。

 

プッチーニのオペラには、幸せな女性は登場してこない。どれもこれもが幸薄く悲劇的、そして純情で可憐な存在として登場する。その中では、このトスカは一番気丈な存在ではありながら、それでも権力者の嘘に易々と騙されてしまう愚かな存在でもある。

 

言うまでもなく『蝶々夫人』で見せた、あの巧みな日本情緒とメロディーの展開同様に、今度はアメリカ文化に対する執念の研究が下地になっている事は、その音楽を聴けば一目(というか一聴)瞭然である。

 

さらに、止まるところを知らないプッチーニの探求の目は、再び東洋の神秘へ向けられる事となった。次なる『トゥーランドット』において、プッチーニがテーマに採ったのはチャイナである。惜しくも、完成を見ぬままに遺作となったこの作品だが「プッチーニの最高傑作!」と評されるほど完成度が高い作と言われる。

 

その後、しばらく寿命が続いていたら、プッチーニの旺盛な探究心が今度はどこに向けられ、それらの素材を今度はどのように鮮やかに料理して、どのような楽しいオペラが生み出されていたであろうか、などと想像を巡らせるだけでも楽しいではないか。

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