2007/05/13

チャイコフスキー 交響曲第4番(第1楽章)

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《今さら言うまでもないことですが、チャイコフスキーの交響曲は基本的には私小説です。

 

それ故に、彼の人生における最大のターニングポイントとも言うべき時期に作曲されたこの作品は、大きな意味を持っています。

 

まず一つ目のターニングポイントは、フォン・メック夫人との出会いです。

もう一つは、アントニーナ・イヴァノヴナ・ミリュコーヴァなる女性との不幸きわまる結婚です。

両方とも、あまりにも有名なエピソードですから詳しくは触れませんが、この二つの出来事はチャイコフスキーの人生における大きな転換点だったことは注意しておいていいでしょう。

 

そして、その様なごたごたの中で作曲されたのが、この第4番の交響曲です(この時期に作曲された、もう一つの大作がオペラ「エフゲニー・オネーギン」です)》

 

《チャイコフスキーの特徴を一言で言えば、絶望と希望の間で揺れ動く切なさ、とでも言えましょうか。

この傾向は晩年になるにつれて色濃くなりますが、そのような特徴がはっきりと表れてくるのが、このターニングポイントの時期です。

 

初期の作品が、どちらかと言えば古典的な形式感を追求する方向が強かったのに対して、この転換点の時期を前後して、スラブ的な憂愁が前面に出てくるようになります。

そしてその変化が、印象の薄かった初期作品の限界をうち破って、チャイコフスキーらしい独自の世界を生み出していくことに繋がります》

 

特別に神経質で感情過多でありながらも重厚なこの交響曲は、チャイコフスキーにとって一番ヒットした曲の一つでもある。

 

同ジャンルにおける前作交響曲第3番から本作への飛躍は、ベートーヴェンの交響曲第2番と第3番の関係にも例えられ、この作品により「チャイコフスキーのシンフォニストとしてのキャリアが決定付けられた」といえる。

また作風も大きな転換点を迎え、これ以後チャイコフスキーは独自の世界に踏み込んでいくことになる。

 

この交響曲では、彼自身の暗黒の運命に対する絶望と諦め、また運命との戦いと勝利が描かれているとされる。

 

1楽章は、暗い現実と淡い夢との交錯である人生を表している。

チャイコフスキーは、いわゆる「五人組」に対して「西欧派」と呼ばれることがあって、両者は対立関係にあったように言われる。

しかし、この転換点以降の作品を聞いてみれば、両者は驚くほど共通する点を持っていることに気づかされるのである。

 

例えば第1楽章を特徴づける「運命の動機」を見ても、明らかに合理主義だけでは解決できないロシアならではなの響きなのである。

それ故に、これを「宿命の動機」と呼ぶ人もいる。

 

西欧の「運命」は、ロシアでは「宿命」となる。

「運命の動機」などと呼ばれる主想旋律を提示する、金管楽器による暗く激しい序奏で、この楽章は始まります。

 

弦楽器の物憂げな旋律や、クラリネットのソロから始まる暖かみのある明るい旋律(「淡い夢」)も現れるがすぐに消えていき、あくまで「暗い現実」を表す主想旋律が、この曲の主役だ。

 

チャイコフスキーの言葉によれば

「この交響曲全体の精髄がこの運命の主想旋律であり、幸福を妨げ絶えず魂に毒を注ぎ込むこの運命の力は、圧倒的で不敗のものだ」

とされる。

 

このことを如実に表す第一楽章の最後は、悲劇的かつ断定的に終焉を迎える。

あまりに断定的なために、終わりと勘違いしたこの曲を知らない人達が、演奏会で拍手をしてしまうことがあるくらいである。 

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