≪モーツァルトのメロディーは美しい。
しかし、それはため息のように短い。
冒頭の序奏をうけて歌いだすフルートの旋律は、そんなモーツァルトの特長がもっともよく出ている。短くはあっても、一度聞けば決して忘れないメロディーである。
この旋律が、最も効果的に使われたのが、映画「アマデウス」だ。サリエリが、はっきりとモーツァルトに対する殺意を固める場面である。また、この場面はサリエリの口を通し、この上もなく素晴らしいモーツァルトへの賛辞が聞ける場面でもある。
コンスタンツェが、夫モーツァルトの作品を持ってサリエリを訪れるところから、この場面は始まる。皇帝の姪であるエリザベートの音楽教師の職にありつくため、夫に内緒で作品を持ち込んだのであった。
サリエリは、作品を置いていくよう仕向けるが、コンスタンツェは断った。
コンスタンツェ
「主人に知れたら叱られます。オリジナルですから。」
サリエリ
「これはオリジナルですか?」
コンスタンツェ
「えぇ、写しは作りません」
サリエリ
「これは本当にオリジナルですか?」
そう言うと、サリエリは立ち上がって譜面を見つめる。
すると、この「フルートとハープのための協奏曲」の第2楽章冒頭のメロディーが流れ始める。
この音楽をバックに、晩年のサリエリが語り出す。
「仰天した。
とても信じられなかった。
曲想が浮かぶまま書いたオリジナルが、どこにも書き直しがない。
どれも直前に完成しているのだ、頭の中で。
どのページも、写したように整っている」
「その音楽は、見事なまでに完璧だった。
音符一つ変えるだけで破綻が生じ、楽句一つで音楽が壊れる」
「私は思い知った・・・それは「神の声による響き」なのだ。
五線紙に閉じこめられた小さな音符の彼方に、私は至上の美を見た」
そうして打ちのめされたサリエリは部屋に閉じ籠り、初めて神を冒涜する言葉を口にして十字架を火の中に投じる。
「もう、あなたは敵だ!
憎い敵だ!
あなたは神の賛美を歌う役目に、好色で、下劣で、幼稚なあの若造を選んだ」
「そして私には、彼の天分を見抜く能力だけ。あなたは不公平で、理不尽で、冷酷だ!」
「あんたの思い通りにはさせない。あんたの創造物であるあいつを、傷つけ、打ち砕く!
あんたの化身である、あいつを滅ぼす!」
苦悩するサリエリのバックに流れる、モーツァルトの音楽のなんと美しいことか≫
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