以上は「女神たち」であったが「妖精」もたくさんいる。その代表的なのが「森の妖精カリスト」になる。彼女は「純潔の女神アルテミス」に忠誠を誓って、彼女に付き従っていた森の妖精であった。その彼女を見そめてゼウスは、彼女が一人でいるところに主人であるアルテミスに変装して近寄り、安心していた彼女に襲いかかって犯してしまう。その後、彼女は「熊」に身を変えられ、いろいろあって後に天に上げられ「大熊座」になっていったという話しは有名となっている。一方、彼女が孕んでしまったゼウスの子は「アルカス」といい「アルカディア王家」の祖となっていく。この物語は「星座の由来」と「名家の祖」の由来話とが含まれたものとなっている。
イオ
河の神イナクスの娘、妖精「イオ」の物語も良く知られている。ゼウスはヘラの巫女となっていた愛らしい娘イオを狙っていたが、ある時妻ヘラの目をくらませようと「雲」となってイオを襲い、思いを遂げていった。しかし、時ならぬ時に怪しげな雲の固まりがあったのではかえって妻ヘラに怪しまれ、慌てたゼウスはイオを牝牛に変えて言いつくろうとする。しかし、ヘラの目をごまかすことはできず、イオは牝牛に変えられたまま虻にさいなまれて、世界中を彷徨わなければならなくなってしまう。
その生涯は当然、波乱に富んだものとなっていったが、やがてエジプトに至り、そこで一子エパポスを得、エジプト王と結婚して女王となっていったとされる。そのためか、イオはエジプトの神「イシス」と同一視される。エパポスは後にナイル河の神の娘「メンピス」と結婚し、その名前をとった都「メンピス(古代エジプトの首都)」を建設し、娘「リビュエ」を得たという。その娘は、後に「リビア」の地の由来となっていく。こんな具合に、この「イオの物語」は小アジアから中東を経てエジプトに至る壮大な物語となるのだが、この神話の中に当時の世界の状況が読み取れるのでは、という研究もあるほどである。
アイギナ
彼女は「アソポス河」の娘となる妖精だったが、ゼウスによって誘拐された。その時、父であるアソポス河は娘を探し求めて放浪し、コリントスにあって王シシュポスに出会って、ことの次第を知ってゼウスの元に急ぎかけつけたところ、ゼウスの雷に打たれてしまうという悲運に見舞われた。一方、彼女はある島でゼウスによって子どもを孕まされ、以来この島は「アイギナ島」と呼ばれるようになったという。つまり、アテナイの沖合にある島で、この島は古代にあっては非常に重要で有力な島であった。彼女から生まれたゼウスの子は「アイアコス」といい、敬虔なる英雄として知られ死後「冥界の裁判官」となっていることで、とりわけ有名になっている。
プルト
彼女についての伝承はほとんどないが、ゼウスとの間に「タンタロス」を生んだ妖精として名前が残っている。タンタロスの伝承はいろいろあるが、有名なのは「地獄に落とされて」水に浸かされ、渇いて水を飲もうとすると水は引き、頭上にはたわわに実をつけた枝が下がっているけれど、飢えてそれを取ろうとすると風が吹いてその枝は舞い上がってしまい、永遠に渇きと飢えにさいなまされている、というものである。彼は「神々に愛されて」いたのだが、こういう目にあった理由については異伝も多い。
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