2021/08/24

日本の宗教文化(3)

日本人の生活

出典httpwww.ozawa-katsuhiko.comindex.html


 以上をまとめて「日本」というものを描いてみましょう。

 

日本人は、以上の原理を巧みに使い分けて生活法を作り出したと言えます。すなわち、日常の生活は原理的には「古神道」となりますが、そんな宗教性などほとんど意識せず、単なる「生活習慣」として「繁栄」「成功」「災厄の除去」を願いつつ生活し、現在の日本人もそうしています。

 

昔にあってはその繁栄は「農耕民族」のあり方から「家中心」となって、社会的存在としての人間としては「お家のために」という倫理観を作っていきました。「」とは結局「家父長制」となり、ここでの倫理観は当然封建的となります。「」とは「集団に殉ずる心」をいい、皆のために「泥を被る」を美徳とします。

 

 西洋民主主義の下に育った筈の現代ですら、日本人はこの感覚を頑なに保持しており、また何かの集団に属すること、皆と同じであることに安心する「集団帰属性」を強く持っています。他方これには大きな利点もあって、この「集団制」は「三本の矢」にたとえられるように誰に対しても「強く」、また束ねられた稲にたとえられるように「倒れず」、また内部にいる限り「互いに助け合う」ことが必須であったために、弱い者も「生きて」いけたのです。欠点は「個人」というものが認められず、民主主義とはそりが合わない点にあります。

 

 さらに日本人は「社会統治組織」として「儒教」を用いましたが、それは日本古来の「家父長制」と儒教がうまく一致していたためで、こうして「公・私の別」「男性優位」「年長者優位」の組織が作られ、ここから「年功序列」の制度なども確立しました。これにも実は大きな長所もあって、これは「秩序の確立と維持」において優れた制度なのです。欠点はもちろん「封建制」そのものの代表みたいなものであることにあります。

 

 また一方、「一人一人の人間としての倫理」は「仏教」に求め、「地獄の思想」、「バチの思想」を強調することで「悪事」への抑止力としました。また意識化されたところでの神道は「死」を穢れとしたため、庶民の持っていた祖先への思いとしての「祖先崇拝」がうまく処理できず、そこでその「祖先崇拝」という役割も「仏教」が受け持つことにされていきました。

 

 さらに日本人は「日常生活」、「社会組織」の面において、これをうまく運営していくために「呪術」を用いていきました。ただし、これは古代人全般に観られる現象ですが、日本はそれが非常に高度に組織化されていたことに特徴があります。

 

 その最大のものが中国思想での「陰陽道(おんみょうどう、おんようどう)」となります。これは、元来は「天地の理法」に基づいた「自然現象」の調和のあり方を観る「呪法」でしたが、ここから時代が下がるにつれて「人間の吉・凶」の占いから、さらには「魔物退散」にまで拡大されていったものです。簡単に紹介すると、以下のようです。

 

陰陽道

 この宇宙は「陰・陽」と「木・火・土・金・水」の五つの要素から成り立っているとします。これを陰陽五行説と言います。陰陽は「月・太陽」に代表され、「夜・昼」、「秋・春」、「北・南」、「女・男」といった対極に当てはめられます。この陰陽は「木・火・土・金・水」の五行において現れ、それによって自然界の現象の様々が現れてくるとします。

 

 したがって、この五行に対する陰陽の働きが読み取れれば、自然界の流れが読み取れるわけで、それはまた自然物の一部である人間への作用の如何も読み取れるとされます。

 

 こうして「方位方角、位置、運動、時間などの吉・凶」が占われます。ところが、この五行にはさらに「十干・十二支」と呼ばれる分類要素が加わってくるため、この組み合わせの数は膨大な数となってきます。

 

 十干とは五行に「兄弟(えと)」が加わってでてくるもので「甲(きのえ)乙(きのと)丙(ひのえ)丁(ひのと)・・・」などとなります。十二支とは「子(ね)・丑(うし)・寅(とら)・卯(う)・辰(たつ)・巳(み)・午(うま)・未(ひつじ)・申(さる)・酉(とり)・戌(いぬ)・亥(い)」であり、これが加わると例えば「丙午(ひのえうま)」などとなります。

 

これは、ようするに五行の「火」に十干を出す「兄弟(えと)」の「兄(え)」が加わって「丙(ひのえ)」となり、これに「午(うま)」が加わったものをいいます。陰陽道は、これが出現した年を「火災」が多いと判ずるのですが、それは「火」の「兄」でありしかも「午(うま)」とは南を指すからというわけです。

 

 私達が家を建てる時の「鬼門」といった概念もここからでているもので、玄関の位置、床の間の位置、台所の位置、庭の配置、池の向きなどなど、すべてに渡って吉・凶が占われてくるのです。

 

 「風水」というのは、元来は「風や水」の流れの如何を読んで人間への影響をいうものですが、これにもこの陰陽道の影響の下にあります。

 

 そして現代人は、今でも結婚式などでの「大安」にこだわりますが、これも陰陽道による「吉日」の判定です。一方、後代の陰陽師は「呪法」を用いて「式神」などを手繰り「魔物退散」を司りますが、ここでも重要なのはその「魔物の正体」の判別であって、「何にせよ厄がとりつかないように」といった類の曖昧な呪法ではありません。

 

 さらには「仏教での呪術」がありますが、これは「魔物退散」というよりむしろ「魔物がとりつかないように」というタイプの呪法で、主に朝廷において用いられました。すなわち「陰陽道」は物事の「吉・凶」の判断に用いられ、仏教が「魔物退散」に用いられたというわけです。

 

伝統的日本文化の特質

 分かりやすく日本の文化の特質を簡単にまとめると、以下のようになります。

 

政治・・・中国の「天子」に代わる「天皇」による国家体制。中国の君主制、官僚制から学ぶ(律令制など)

 

生活・・・日本民族の伝統の「古神道」に基づき「繁栄」を祈り、「祭り」、「祭儀」で節目をつける。

死後の事、祖先のこと、難儀のことはインド・中国経由の「仏教」で祈り、儀礼を行い「救い」を求める。

 

文学・・・中国の文学から学ぶ。文字は中国の漢字をそのまま採択。

 

芸術・・・仏教の教えの絵画的表現。また仏像彫刻。中国の「彩墨画」の技法に学ぶ。

 

学問・・・中国の「四書・五経」。および「仏典」。

 

演劇・音楽・・・中国の宮廷儀礼の作法に学び、音楽は「雅楽」、演劇は中国的「京劇」の流れにある「歌舞伎」など様式美の追求。

 

 これらは明治以降に始まり、戦後顕著となる「西洋化」によって消失したり、衰弱したりしたものが多いですが、しかし、依然として生命力を保って居るものも多いです。

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