前回も記したように、B社とT社が競うようにして案件情報を流して来ていた頃、さらにJ社というもう一つの企業にも登録した。
J社の商流の悪さもT社と同様だったが、違いは担当者のNWに関する知識である。B社のH氏とT社のK氏が、元々はIT系の営業ではなかったため、NWエンジニアに対する知識がやや覚束なかったところがあるのに対し、J社の場合は商流の悪さはあったものの、担当のC氏はバリバリのIT営業マンらしくNW系に対してもサーバ系に対しても、それぞれかなりの知識を持っていた。それだけに、当初伝えていた希望に近い案件を最も多く紹介してきていたのは、このC氏である。C氏が登場して来てからは、面接はこのJ社案件が最も多くなった。
どこも、なかなか決まらないのは似たり寄ったりだったが、B社とT社の場合は前にも言ったように方向性から幾らかのズレがあった点は、なかなか修正されなかった。そのためこの両社の面接では、それぞれ2~3の内定は貰いながら、どれも方向性が合わなかったり求めるものよりはレベルが低く、断るケースもあった。
H氏とK氏の比較では、幾分かはH氏の方がITの知識はあるらしく、断った時には
「本件では、内容的に物足らなかったですか?」
と修正を約束してくれたが、T氏の方は2~3の内定を蹴った辺りから、わけが解らなくなっているようだった。
「あまりこのような事が続くと、貴社にも迷惑が掛かるし私自身も無駄足が多くなるので、今後は無理に紹介してくれなくてもいいですよ」
と伝えると
「正直、にゃべさんの求めるものが、よくわからなくなってきているのは事実です。が、にゃべさんには是非とも、ウチでやっていただきたい気持ちは変わりませんので、素人の僕にもわかるように条件を箇条書きにして、メールしてくれませんか?」
と出方を変えてきた。
これに対して、ヒアリングの内容を非常に的確に理解して、他社と比べると最も方向性にマッチした案件を次々と紹介してきていたのが、J社のC氏である。 が、皮肉な事にJ社の案件については、他社とは違い一つの内定すら、なかなか覚束なかった。このJ社の案件が、他社案件に比べなかなか内定に至らなかったのは、それだけ希望の方向性にマッチしていた(つまり、これまでの経験値以上に、高いスキルを求められるものだった)せいでもある。
また、そんな中で充分に手応えを感じた面接でも、結果が伴わないケースが幾つかあったのは、他社と競合した場合の企業としての競争力のなさと、商流の悪さもやはり影響していたものと考えられた。特に、元請け面接までスムーズに運びながら、エンドのところでうやむやになってしまい、わけがわからないうちに消滅してしまったケースが二度続いた時は、さすがに腹が立ったので
「二度も続けて、このようなわけの解らない形で消滅したのは、正直言って商流の悪さだと思っています・・・わざわざ、横浜まで行った挙句にこんな結末では、正直やってられない」
とクレームをつけたが、外見からして無神経そうなC氏はいつものように、ヘラヘラと笑いながら
「今回は、私の方でも誤算続きでして・・・今後は、より商流の良いものに絞って、ご紹介をして行きますので」
と、大して堪えている風でもないようだった。若いベンチャーのJ社は、20代後半のC氏が営業部長である。C氏の熱心な事は、H氏やK氏に比べても決して見劣りがするものではなかったし、ちょうど揃って20代半ばから後半に差し掛かろうかというこの若い三人の営業マンは、ポツポツと忘れた頃に案件紹介をしてくる他社の営業に比べれば、なんとか自分の手で決めてやろうという熱心さにかけては、一点の疑いもなかった。それだけに、この際は多少の「商流の悪さ」には目を瞑っても
(なんとかこの三社のうちのどれかで、いい仕事が決まればいいんだがな・・・)
という気持ちが、徐々に強くなってきていた。
かつて名古屋で活動していた時には、営業担当者との人間関係などは、あまり考えた事がなかった。名古屋時代に相手をしていた営業が、比較的かなり年上のオジサンが多かったり、偶々かもしれないがえげつないやり方をするタイプが、多かったせいかも知れない。それに比べると、やはり若い営業の一途な熱意が伝わりやすかったのかもしれないし、これだけ面接などで一緒に足を運びその都度色々と話をして来たから、そうした気持ちになったのかもしれない。
それまでは、あくまで「仕事内容オンリー」という考え方だったから「彼の会社で、なんとか・・・」という発想自体が、自分でも不思議な気がした。勿論、彼らとて企業の歯車のひとつだから、究極は自社の利益を上げるためだったり、或いは自らの営業成績を上げるために頑張っているというのが原動力になっている事はわかっているし、だからこそこちらとしては
(良い仕事さえ、紹介してもらえれば・・・)
という気持ちしかなかったが、それでも動機はともあれ自分のためにこれだけ動いている姿を見ると、やはりそこに「人間関係」というものが生まれて来るのは、それはまた自然な成り行きなのかもしれない。単純に、面接までに一緒に行動を共にする時間が多くなるだけでなく、場合によっては面接にも同席して考え方などをその都度訊いているだけに、初対面の営業マンとは比較にならないくらいに、互いに理解が深まっているという事情も絡んでいた。
三人が揃って
「ここまで来たら、にゃべさんには是非とも、ウチでやって貰わないと・・・」
と口を揃えているのに対し、こちらとしては
「私も、なんとか御社でという気持ちはあるけど、最初に話したようにあくまで内容重視が原則なので、タイミングによっては期待に添えないかもしれません」
とスタンスだけは、常に明確にしておく必要があった。
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