2007/04/05

ビジョン(東京劇場・第3章part6)

 政府系機関の現場に入った事でM氏との関係は切れたが、L社との関係が切れたわけではなかった。転職活動時代の名残で、幾つかの企業から現状確認のメールや電話は度々入っていたが、L社からもB氏という面識のない人物から度々メールや電話で状況確認があった。

現場での勤めが一年、二年と続くうち、次第にこうした確認の電話やメールは少なくなっていったが、そんな中で最もコマメに連絡を寄越していたのが、このB氏だった。

後から考えてみると、B氏だけは半年くらいの単位で定期的な確認をしていたように思う。二年が経ち、いよいよ現場に見切りをつけて転職活動を始めようかというタイミングでも声をかけられていただけに、先に紹介したB社やT社、或いはG社よりも早く動き出していたのが、このL社だった。そしてこのL社からも、色々な案件が舞い込んで来ていた。

ベンチャーからスタートして、社歴も若いB社、T社、G社とは違い、L社の方は派遣の老舗会社であり、また業界大手と言われているだけに商流の良さは比較にならず、殆どが直接取引きかそれに近いものばかりだった。

最初に紹介があったのは、浜松町の某社のNW管理者である。元請け会社の部長と、現場リーダーとの面接がトントン拍子で進み「是非、来てくれないか?」  とのお誘いを受けたが、リーダーから聞いた仕事の内容があまり魅力的に思えず、辞退した。

次に金融系の案件で、元請けの大手商社系のSIerに面接に行った。業界では有名な企業であり、3年前にも面接に行ってNGを出された企業だったが、今回は「是非とも」という回答が来た。が、面接時に引っかかるものがあったため、これも迷った末に結局は辞退した。

 面接時に引っかかった話というのは、次の通りである。

現状、元請けとなる大手商社系SIer「C社」から出向している4名のチームを組んでいるが、リーダーの人物がクライアントの銀行から

「彼は、リーダーじゃないよね・・」

とNGを出された。そのため、早急にリーダーを入れ替える必要がある。

「その後、リーダー以外の3名の他のメンバーも、早期に順次総入れ替えをしていく」

という発言から、メンバー全体がクライアントの要求を満たしていない、と推測される。

リーダー以下、全員が20代のメンバーである事と上記の発言から、クライアントとの関係では、先方から信頼を持たれていないようなニュアンスが色濃く感じ取れた。クライアントだけでなく、面接を担当したC社のSE二名(現場メンバーをバックヤードからコントロールする役割)もメンバーに信頼が置けていないのは、この話になると2人の担当者が揃って沈鬱な表情になり、奥歯に物が挟まったような口調になる事からも歴然であった。

仕事の内容としては、データセンターが別の場所にあり、常駐している要員がオペレーションを行っており、障害発生時やなんらか問題が起きた時に「二次対応」をする事と、クライアントとの折衝などが主な役割とのこと。したがって、自ら機器やサーバ等に触れたり、設定するようなケースは滅多にないという点にも引っ掛かった。

「現リーダーの代わりとして来て頂きたい」

との事だったが、先にも話していたように現リーダーというのが、クライアントから「失格」の烙印を捺されているのだから、その人物から業務の引継ぎなどは望めないはずであり、その点も大いに気になり質問したが、それに対する回答は

「引継ぎは現リーダーが行いますが、その期間は一週間程度しかない」

というものだった。

 要するに、現リーダー及びメンバーに大いなる不満を抱いているのは解った。恐らくは若い連中と言うことだし、現場には上司に当たるような人物もいないから、学生のようなノリで取り組んでいるのではないか。だからリーダーだけでなく、メンバーも総取替えしたいという考え自体は理解できるが、ではどうしたいかというビジョンがまったく伝わってこない。ダメ出しをしたリーダーの引継ぎで、しかも一週間というのではあってなきに等しいし、その後のメンバー総入れ替えのビジョンに関しても、正直よくわからなかった。単に

「ダメだから、取り敢えず総入れ替えだ」

という風にしか、聞こえないのである。

そうした点に一抹の不安があったのと、役割的にリーダー候補として入る事は良いとして、実際の現場となる銀行には運用員が常駐しており、こちら側は司令部のような形で何かトラブルが起きた時に、運用員からのエスカレーションに応じ、対応指示や指揮をするという事だった。が、あくまでもリモートによる指示であって、自ら機器の設定なりで障害の対応に当たるケースは、殆どないということもあって、結局は辞退した。

「やっていただけるのであれば、金額についてはまだ交渉できると思うので、是非とも・・・」

と、なおもY氏はしぶとく食い下がってきたが、気持ちは変わらなかった。

ところで、このC社の面接前の事。R社の担当のY氏とは初対面だったため、面接の30分くらい前に待ち合わせをして、喫茶で少し話をした。ひと通りの案件の説明が終わって、Y氏がR社についていかに古い会社であり、派遣会社のパイオニア的な存在であるかという事や、今では大きな会社に成長しているという事を力説していた。

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