この前にも、一社から「社員になりませんか?」という、お誘いを受けていた。担当者の一次面接の後、二次面接では役員から熱心にお誘いを受け、条件提示も受けたが同じ理由で態度を留保した。
「実際に、どんな現場でどんな仕事をするのかがわかるまでは、受けられない」
と、回答したのも同じである。
その後、B社のH氏と同じように、若い営業のK氏による矢のような案件の紹介が降って来たが、このK氏の場合もH氏と同様に元々がITの営業ではなかったらしく、やはり事前に出していた希望の方向性とは、かなりズレがあった。 傾向的に、市場ニーズそのものがNW系よりサーバ系の方が多かったが、H氏にしてもK氏にしてもNW系とサーバ系という微妙な(しかし、ワタクシ的には絶対的な)差異がしっかりと区別できていないのは、unixサーバ構築などといったサーバ系案件もひっくるめて「NW系の案件」と表現していたところからも、明らかだった。
ただし、このK氏の熱意はH氏にも決して引けを取らないもので、面接で取引先の企業に引渡しをする時など、必ず自らも待ち合わせの現場に来ていた。H氏は、引き渡して直ぐに帰るだけだから
「忙しのに時間も交通費も無駄になるから、場所を教えていただければ一人で行きますよ」
と言うと
「お気遣いはありがたいですが、私はにゃべさんの担当として、責任を持って相手に引き渡す役目がありますので・・・」
と言って譲る事はなかったのは、H氏同様である。ガキ大将が大人になったような、浅黒い顔に鋭い目つきと逞しい感じの陽気なH氏と、小柄の色白でどことなく線が細く、いじめられっこだった(?)ような時折反抗的な目つきを見せるが、それでも口が上手く快活なK氏の二人は、まるで互いに見えないところで競っているかのように、次々と案件を紹介してきていた。
しかしながら、どれも目指す方向性とズレがあるものばかりだったり、たまに方向性の一致したものが出て来ても、面接ではよい結果が得られなかった。
このT社の案件がなかなか決まらない理由としては、いわゆる「商流の悪さ」があった。
IT業界の、一般的な商流の流れはこうだ。まずエンドユーザーの大きいところとしては、NTTやKDDIなどの大手通信キャリアやNTTコミュニケーションズ(NTT.com)、KDDIなどの大手通信キャリアや携帯キャリア(NTTドコモ、au、ソフトバンク)、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)、金融業(銀行・証券)、官公庁、製造メーカーなどが一般的だ。
こうしたエンドユーザーと、直接取引きをしているのが「元請」と呼ばれる企業で、上記のような大手のエンドユーザーになると、元請も上場しているような有名企業であるケースが一般的である。多いのはNECや日立、或いは富士通、東芝、三菱電機系といった、コンピュータメーカーの情報処理部門から独立した会社、またはそのメーカー傘下に入った会社、或いはNRI(野村総合研究所)、CTC(伊藤忠テクノサイエンス)、新日鉄ソリューションズ、住商情報システムといった旧財閥系など資本系のシンクタンク、さらに独自資本を持った独立系として大塚商会、CSK、TIS、インテック、内田洋行などなど(分類不明だが、NTTデータなども有名)。これらの大手から、SIerなどが受注をしていく事になるのが基本的なパターンである。
ところが、この間に入る事になるSIerと称される企業が、IT業界の好景気の波に乗って雨後の筍の如くに増殖したがために、技術者などの受注側からエンドユーザーが、遥かに遠くになってしまう傾向に拍車が掛かっているのである。
※システムインテグレーター(System Integrator)とは、情報システムの開発において、コンサルティングから設計、開発、運用・保守・管理までをワンストップで行う、情報通信企業である。SIer(エスアイアー)とも呼ばれる。オープンシステム化により、システムが一つのベンダのハードウェア及びソフトウェアで完結しなくなった、1990年代以後に登場した企業。得意としている分野や注力している業務は、出自・沿革に応じて企業毎に大きく異なる。
※システムインテグレーター(System Integrator)とは、情報システムの開発において、コンサルティングから設計、開発、運用・保守・管理までをワンストップで行う、情報通信企業である。SIer(エスアイアー)とも呼ばれる。オープンシステム化により、システムが一つのベンダのハードウェア及びソフトウェアで完結しなくなった、1990年代以後に登場した企業。得意としている分野や注力している業務は、出自・沿革に応じて企業毎に大きく異なる。
前回紹介したような業界の流れから行って、技術者自身の所属になる企業とエンドユーザーの間に企業が介在するのは避けられないのが実情だった。間に(技術者自身から見れば)無関係な企業が入る事によって、情報が正しく伝わらなかったり、或いは契約後にも意思の疎通に支障が出るような事が起こりがちだから、叶う事なら出来る限りエンドに近い仕事をするのが良いのは常識である。
が、残念ながら、このT社の持ってくる案件は「商流が非常に悪い」ものばかりだった。元請との間に、常に二社は噛んでいるのが当たり前であり、担当のK氏ですらエンドはおろか、元請企業すら知らされていない事も珍しくないくらいだったから、これでは正確な情報が伝わるとは思えなかった。結果として、自分の望む仕事に就ければいいとはいえ、所属する事になる企業が間に介在している企業から、正しい情報を貰っていないというのは、やはり引っ掛かりがある。
そうした事を実感するような面接が続いたため、K氏には
「あれだけ、間に幾つもの無関係な会社が入っていたのでは、情報の正確性に期待は持てませんよ・・・」
とは再三指摘していたが、現状では自社でエンドユーザーに近い案件は持っていないということだった。それに対して、H氏のB社の方は比較的エンドに近く、T社のように間に二社程度が介在しているケースもあったが、ものによっては大手メーカー系列と直接取引きをしているようなケースもあっただけに、情報の正確性ではT社に比べ幾らか分があった。
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