2007/04/06

裏話(東京劇場・第3章part7)

 この辺りは、企業人は誰しも同じ愛社精神のようなものだから適当に聞き流していたが、ワタクシの中でR社といえば3年前にやり取りのあった、M氏の事が真っ先に思い浮かぶから

「そういえば・・・3年前に上京して転職活動をした時に、Mさんと面識がありましたが・・・今は、どうされてますか?」

と、何の気なしに訊くと

「Mは、今は営業部の統括本部長になってますので、営業というよりは全体を見る管理者的な立場になります・・・営業も、やってはいますが」

「随分と出世したのかな?」

「どーですかね・・・まあ営業部全体の中で、ナンバー2になるから・・・」

と訊いて

(随分と出世したものだ・・・)

と、時の流れを感じずにいられなかった。

「あとは面識はないですが、御社ではSさんとはメールや電話で、随分とやり取りをしてますよ・・・最近は仕事の紹介は、もっぱらSさんからだし・・・Sさんは、どんな人でしょう?」

「Sは仕事をマッチングする、コーディネーターのチームリーダーですよ」

という事であった。

ともあれ、これでR社の案件については2回の内定を貰いながら辞退を重ねた経緯があって、自分の中で

(今後、R社からの紹介はなくなるかもしれないな・・・)

と考えていた。

実際に数日間は音沙汰がなかったが、ある日の夜23時近くになって

「遅い時間に恐縮ですが・・・」

と、S氏から電話があった。

「Yから訊きましたが、先日ご紹介したC社の件はご辞退されたそうで・・・向こうは是非とも来て欲しいという事のようでしたが・・・」

「まったく恐縮です・・・せっかく紹介していただいて、ご期待に沿えず・・・」

「それは、しょうがないですが・・・」

「前の件もあるしこれで二度まで回辞退したので、私としては御社からの紹介が途絶えても仕方ない、と考えた末の結論でしたが・・・実際、営業さんの立場からすれば、嫌になるでしょうからね」

「いや、そこはお気になさらずに・・・私としては営業がどう考えようとも、にゃべさんがよければこれまで同様、紹介は続けていきたいと思っておりますし、営業の者たちには私が指示を出して、動かす立場ですからね」

 「勿論、紹介いただけるというのはありがたいですが、営業さんの気持ちとかモチベーションを考えると、次はこうならないように出来る限り事前の刷り合わせを、よりしっかりとしておきたいですね」

「実は、前の件はともかくとして、今回の件は私の方でもどの辺りににゃべさんがズレを感じておられたのかが、もう一つわかり難いので・・・」

「そうですね・・・確かに前のに比べれば、内容的にはかなり希望には近かったと思いますが・・・」

と、先に考えた事を伝えた。

「なるほど・・・大体、解りました・・・」

と、S氏も幾らかは納得したようだった。

「というわけで、前にも言いましたように私の場合は、あくまでも方向性を追求する気持ちに変わりはないので『じゃあ、来てくれ』と言われたから、必ず『はい、解りました』となる保証はありません。あくまで、訊いた話を元に出来るか出来ないか、やりたいかやりたくないかを元に判断していく点に変わりはありませんので、それを前提として紹介するしないの判断をしていただければ、いいと思っていますよ」

と、他社にも伝えているポリシーを改めて繰り返した。

「実は・・・」

と、俄かにいつもの無愛想なバリトンのS氏の声が、少し変化したように感じた。

「多分、にゃべさんは憶えてないでしょうが、私の方ではにゃべさんの事は3年前から知ってましてね」

3年前?」

3年前に

『自分の目指す方向性を実現するため上京した』

といって、ウチに来られましたよね。あの時、私はまったく表には出てませんでしたから、にゃべさんの方では認識がないと思いますが、内部では私がずっとスケジュールの調整とかをしていたんですよ。Mと一緒に、面接に行ったりした時の事ですが。あれから私なりに、なんとかにゃべさんの方向性に合うような仕事を、ご紹介できればと思っていましたが、どうもなかなか上手くいかないですね・・・ハハハ」

「・・・」

 「私はまだ、にゃべさんにお会いした事はありませんし、電話でしか話した事がないのに、こんな事を言うのはなんなんですが・・・なんと言うかな・・・にゃべさんは、決して大風呂敷を広げてアピールをするような人じゃなくて、本当にご自分を等身大に見せる人ですよね。なので方向性を追求する面接では、どうしても営業サイドとしてはアピールが弱く感じてしまうらしいですが、私にはにゃべさんの意図するところが、もう少し理解できる気がします。

それに・・・一緒に仕事をした事がないですが、僕の中のにゃべさんのイメージは、きっと一度手を付けた仕事は責任を持って、非常に丁寧に完璧にやり遂げてくれる人だ、というイメージが何故か強くてね。きっと、そんな人なんだと思って、なんとかウチから良い仕事をご紹介したい、と思っているんですよ」

「・・・」

「それでね・・・もうこんな時間(23時ごろ)だから、会社の人間はみんな帰ってしまって、私以外は誰も居ないんですけどね」

「なるほど・・・」

「実は、さっきYから辞退の報告を聞いたので、今までにゃべさんに合う仕事をDBで検索していたところでしてね・・・」

何年か前から、度々状況の確認をしてきていたS氏であり、また度々電話で耳にするバリトンは無愛想を絵に描いたような、どちらかと言えばあまり楽しくなるような話し相手ではなかった。そのS氏の、いつになく俄かに砕けた口調であり、また23時という非常識な時間に掛かってきた電話の謎も解けた。

(こうして自分の見えないところで、色んな人が動いているんだな・・・)

それまで「仕事ありき」で、営業マンとの人間関係などは殆ど意識したことはなかったが

(やはり世の中は、人間関係で廻っている・・・)

と、再認識させられる事に。

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