2007/04/01

安藤の執念(2007世界フィギュアスケート選手権観戦記)part2


 続いて登場して来た、前回の金メダリスト・マイズナーにミスが出て得点が伸びず、遂に浅田がトップのままで最後の安藤の出番がやって来た。

浅田と安藤。同じ愛知県の出身(中野も)であり、余談ながらワタクシも愛知の出身である。かつての絶対的な強さがやや蔭を潜め、追われる苦しみを味わい始めているのがこのところの浅田であり、対するにここ数大会で急激な変貌を遂げて、目覚しい急成長を見せているのが安藤である。

安藤の成長には確かに目を瞠るものがあるが、ワタクシの見るところではまだまだ総合力では、浅田の方が上だと思う。この「フィギュア観戦記」でも書いて来たように、フリースケーティングの配点は様々なエレメンツ(技の要素)の組み合わせによって決まってくる。

現在持っている技の難易度を含めたプログラム構成を見る限り、浅田が自身のプログラムで完璧な演技をこなしたら、他の選手は4回転ジャンプでも成功させない限り追いつかないハズなのだ(これに匹敵する高難度の技を盛り込んだプログラムは、五輪で金メダルを獲った時の荒川くらいである)

だから、この時点で安藤が浅田選手を上回って優勝するためには、4回転でも決めるかミスのない完璧な演技をして見せるしかないが、4回転は失敗した場合は一気にメダル圏外に落ちてしまうというリスクが大きすぎるから、この位置でやるはずはない。さらに安藤には、最終滑走と金メダルが目の前にちらついているという、様々なプレッシャーが伸し掛かってくる事も考え合わせた結果「浅田・金、安藤・銀」と密かに予想していた。

そんな重苦しい状況の中で、予想通り4回転は回避した安藤だったが、五輪の頃とは見違えるような安定感で、堂々たる演技を見せた。SPは突然の電話で見逃したが、フリーに限って言えばやはりあれだけ観客の心を掴んだ浅田の方が、内容的には上回っていただろう。

結果、フリーの得点は、浅田「133.13」、安藤「127.11」。SPを併せた総合得点では 安藤「195.09」、浅田「194.45」とSPの貯金がものを言い、僅かに安藤が上回った。

 正直なところ、ワタクシ自身は以前から一貫して陽性の浅田贔屓なのだが、これまでの経過と今後の事を考えると、今回は非常に理想的な結果だったのではないか・・・と思う。

国際舞台にデビュー以来、順風満帆で来ながらここへ来てやや壁にぶつかりつつある浅田は、大会前から「200点で金メダル」宣言を繰り返していたように、それだけの自信もあったのだろう。それが「世界選手権」という真の大舞台で、SP5位というまさかのミスに始まり、フリーで一旦は「大逆転金」の夢を掴み取った・・・と思ったのではないか。

結果的にフリーではトップになったものの、総合点の僅かな差で「金」を逃した事で、改めてSPの重要さや勝負の怖さを、身をもって体験した。これからどこまでも伸びて行くような、あの伊藤みどり以来(または、それ以上の)稀に見る素質を持った逸材なのだから、今の色々な経験が総て将来のプラスになっていくはずだ。

インタビューなどを聞いていても、いつもしっかりと自己分析や課題の整理が出来ているだけに、ここでアッサリと逆転の金メダルを掴み取るよりは、寧ろこうした経験の方が今後より大きな財産になって来ると思う。そして、まさにそのような経験をバネに、見事に復活をして来たのが安藤である。

五輪までの一年は、観るも無残だった。ワタクシも、これまで散々に扱き下ろし続けて来た通り、とても国際大会の舞台に立てるような状態ではなく、TV観戦をしていても

(もう止めてくれ・・・)

と、まるで視聴者の方が拷問を受けているような、長きに渡って醜態を晒し続けていたあの安藤であり、それが同じ選手とは思えないほどに見た目も演技も、急激な変貌を遂げてきたのには、実に恐れ入った。マスコミから面白半分に好奇の対象にされるという、他の誰よりも過酷な状況に耐えながらも、見えないところで血の滲むような努力を積み上げていたのに違いない。

先にも書いたように、今回は現時点でまだ実力的に上を行っていると思われる、浅田とキム・ヨナという「16歳コンビの自滅」に助けられた部分は否定できないが、いずれにしても選手にとっては結果が総てだ。

あの屈辱と悔しさを忘れずに、大舞台で見事に「」という結果に結び付けてきたのは立派の一語に尽きるし、五輪に続いてまた日本に金メダルを齎してくれたという意味からも、今回は安藤には素直に拍手を送りたい。

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