●宇宙開闢の四柱の神々
宇宙の始めについて、最初の神話作家ヘシオドスの説明はない。
ただ「何やら分からない、名前も形も色も匂いも何にもないけれど、何か宇宙の原質となるようなものがあった」と想定するしかない。
ともかく「始めに原初のものがあった」とする。
ここから宇宙開闢が始まるのだが、その運動についても説明はない。
しかし、ともかく活動し始め、この世界を生み出していくことになる。
ヘシオドスは「最初に生じたものは何か」と問うて「始めにカオスが生じた」と言う。
カオスというのは通常「混沌」と訳されるが、ここでは「開き口」あるいは「空隙」くらいの意味だろう、と考えられる。
つまり、何かが開かなければ何も始まらない。
あるいは、物と物とを分け隔て(空隙の観念)、一つの物として認知させる「形の形成の原理」かとも考えられる。
なぜなら、空隙がないということになったら、全ては一つになってしまって物の形などなくなってしまうから、この状態が「混沌」とも言える。
ついで「ガイア」が生じた、という。
このガイアというのは「大地」を意味する。
これはわかりやすいが、ところが続けて第三の神として「大地の奥底にタルタロス」といってくる。
このタルタロスというのは「無間」を意味し、イメージ的には底なしの空間となる。
こんなものが何故、始めの神とされているのか説明はないが、大地が形あるものの生成の材料的原」と考えられるのに対し「消滅の原理」であると考えられる。
というのも、ここは二度と地上にでてくることができないところであるからで、後には永遠の地獄となる。
生成ばかりでは増える一方になってしまうため、対概念としてこんなタルタロスのごときを言ってきたのかも知れない。
そして四番目に「愛神エロス」が生まれた、と言ってくる。
このエロスはヘシオドスによって「神々の中でも最も美しく、神々や人間の心や思慮をうちひしぐ」と語られているので、要するに我々の知っている「愛」でいい。
これが、二つのものを引き寄せて子供を生む原理であることは、いうまでもない。
●「宇宙創生」の原初の神々の形成、「混沌のカオス」からの生成
宇宙開闢の四柱の神々は、展開して宇宙を創生していく原初の神々を産み出していく。
最初の混沌のカオスの場合、次に神エレボス(暗黒)と女神ニュクス(夜)を産む。
これはエロスの働きではなく、カオス自身の展開といった記述の仕方となっている。
次に、エレボスとニュクスからアイテル(澄んだ気)とヘメレ(昼の日)とが産まれる。
こちらは情愛の契りをして、と語られる。
こうして「闇と明」「夜と昼」とが生成したことになる。
ついでヘシオドスは、夜のニュクスが「誰とも寝床を一つにする事なく、一人で」産んだ子供たちを列挙する。
「夜」という名前に付いて回る暗いイメージの子供たちで、例えば「忌まわしい定めのモロス」とか「死の命運のケル」とか「死のタナトス」、「眠りのヒュプノス」、「夢のオネイロス」などが挙げられてくる。
その他、非難とか苦悩、運命、憤り、欺瞞、欲情、老齢、争い、苦労、忘却、飢餓、悲嘆、戦闘、殺害、殺人、紛争、虚言、口争い、不法、破滅などなどの子どもを産み出して行く。
これらは普通名詞であるが、同時に擬人神となる。
●原初の神々の形成、「大地のガイア」からの生成
一方、大地ガイアの子どもは形ある自然物となり、まず大地ガイアは「天ウラノス」を産み出す。
これも一人で産むので、言わば分身といえる。
ヘシオドスは「こうすることで、大地が神々の揺るぎない座になるためだ」と語っている。
さらに大地は山々(名前はない)を産み、そして海原ポントスを産み出す。
この山と海は、大地の分身であることは分かりやすい。
次からは、エロスが活躍する。
まず、大地ガイアと天ウラノスの組み合わせをつくり、ついでガイアと海ポントスの組み合わせをつくる。
さらに大地ガイアは、タルタロスとも交わることになる。
ここで一番大事なのは、天ウラノスとの関係である。
ここから生まれてくる者たちが、ギリシャ神話の主人公となる。
オリュンポスの12神も、この系譜にある。
●「大地ガイアと天ウラノス」からの生成
大地ガイアと天ウラノスは、添い寝して子供たちを産む。
まずは詩人ホメロスの叙事詩の中で「神々の祖」とまで言われていた「大洋オケアノス(この英語発音が、オーシャンとなる)」を、そしてさらに偉大な神々を産んで掟の女神テミスやオケアノスの妻、女神テテュスなどが挙げられる。
後に、この種族は「ティタン神族ないしクロノスの一族」と呼ばれることになるが、その名前の由来でこの一族の主神となるクロノスたちを産む。
さらに一つ目の巨人キュクロプス兄弟、そして最後に百手の怪人神ヘカトンケイレス兄弟を産んで行く。
●ウラノスの滅亡
ところが、天ウラノスはこのヘカトンケイレスを憎み(後に三人の名を挙げ、彼等の無類の勇気と容貌、体躯を妬んでといわれている)、大地ガイアの奥底に彼等を押し込んでしまったという。
だが大地ガイアの方は腹いっぱいに詰め込まれて呻き、怒りで復讐を企んだ。
こうして大きな鎌を作り、子供たち(クロノスの一族)に反逆をそそのかす。
しかし皆、天なる父ウラノスの力を恐れ尻込みする中、クロノスが母への協力を申し出る。
こうして母ガイアは大鎌を渡し、待ち伏せの場所にクロノスを隠し、ウラノスが天から降りてくるのを待ち受ける。
ウラノスはガイアのもとを訪れ、横たわるガイアの上に覆いかぶさってくる。
その時を待っていたクロノスは、ウラノスの偉大な一物を左手にむんずとつかみ、右の手にもった大鎌でその巨大なやつをバッサリ切り落としてしまう。
ウラノスは自分の子クロノスを罵り、この報復が後にやってこようと呪いをかける。
●美神アフロディテの誕生
傷口からは血が迸り出て、それはガイアに受け止められ、復讐の女神エリニュスと巨大なギガンテス(ジャイアンツの語源で野蛮な巨人)、長槍の柄となるトネリコの精メリアイ」が産まれる。
しかし、切り取られた一物は海へと投げ捨てられ、海原を漂っていくうちにその回りに白い泡が沸き立ち、その泡にまみれた一物から美しい乙女が産まれ出てきた。
美の女神アフロディテの誕生であった。
ヘシオドスは美の本質をここに見ているようで、それは男根という産む性格を持ち、怨念を伴い復讐の女神と殺戮と闘争のシンボルを兄弟・姉妹に持っているというわけである。
人間の歴史が、どれだけ美しい女のために怨念と復讐の殺戮劇をみせ、男達がどれだけ戦ってきたことかをみれば納得できる。
ともあれ、アフロディテは流れてキュプロス島に上陸する。
そこに、あの原初の神の一人であった愛の神エロスが、彼女の従者になるべく欲望ヒメロスを伴って現れてきたという。
この時以来、エロスは若者の姿になってしまった(彼はさらにもっと若返り、ローマ時代には、ついにキューピッドという赤ん坊にまでなってしまう)。
エロス自身は燃え上がる恋の心を司るが、性欲は司っていない。
それを司るのはヒメロスの方であって、ここにヒメロスまで登場してきてアフロディテの性格を美と愛と性とにしてきた、というわけである。
こうして、この女神の持ち分はヘシオドスの語りでは「娘たちの甘い囁き、ほほ笑みと欺瞞、甘美な喜び、情愛と優しさ」というわけで、じつにこうして男達は翻弄されることになってしまったのである。
※ http://www.ozawa-katsuhiko.com/index.html 引用
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