2017/11/21

雑食性化した食生活(日本の食文化とは何か/農林水産庁Web)

8 食生活スタイルを環境保全型に再構築を

振り返ってみると、19世紀までの人類は飢餓に悩まされ続けてきた。食べ物が欠乏するとヒトは非常、非道になり、諸々のタブーなどの約束事などは飢えを癒す上で、いかほどの障りにもならなかった。

 

食べ物に多少のゆとりができたのは、20世紀になってからのことである。現在の日本人は、進歩した食品保蔵・輸送・加工技術と、地球規模にまで広げた食料確保の体制を利用して、有史以来、最も豊かな食生活を享受している。しかし、これからの日本人の食生活が、現在の豊かさの延長線上にあるとは考えられない。私達は質と量の両方に関わる、重大にしてかつ緊急な食料問題を抱えているからである。

 

まず、私達が超雑食性になってしまったことである。これは、スーパー・コンビニ症候群と呼称すべきかも知れないが、個人の嗜好と食欲が押し枉げられた偏食と飽食のせいで、がん、心臓病、糖尿病、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)などの生活習慣病が蔓延している。各種の調査結果を見ると、家庭内の食行動、食生活スタイルも正常ではなくなってきた。過半の若年層が朝食を孤食もしくは外食し、あるいは欠食し夕食を家庭で食べない。13食食べない食生活=“崩食”している人や、健康への影響や栄養効果を考慮しない、成り行きまかせの食生活=“放食”している割合も増加の一途をたどっている。

 

伝統社会や途上国社会では、現在でも慢性的な食料不足に悩んでおり、さらに地球全体の人口増加と畜産物の消費が増えたために、世界の穀物需要が逼迫している。

 

世界人口時計(http://arkot.com/jinkou/)によると、地球上の人口は2006225日に65億人を超え(201024日正午現在で684577万人、毎日22万人増加)、2050年までに100億人を超えると予測されている。はたして地球は100億人を、心身ともに健全な状態に養うことができるだろうか?

 

中国、インドでは現段階で、すでに穀物の消費量が生産量を上回っている。中国は1995年以来の食肉消費の増大によって、穀物在庫を大規模に取り崩している。年に80億ブッシェル(約23000t)の穀物が家畜飼料に転換され、このまま進むと20109月には世界の穀物在庫が空っぽになる可能性がある、と危惧されている:http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/agrifood/foodsecurity/news/08050201.htm。その一方で、米国ではトウモロコシを主な原料にする代替燃料エタノールの生産が急増し、豊作なのに20082009年のトウモロコシ価格が2005年の2倍近くに跳ね上がり、その余波は他の穀物、例えばコメの価格上昇を導いている。

 

我が国が抱えている食料問題も深刻である。食料の供給と消費を11人当たりのエネルギーで比較してみると、供給量はほぼ2,600 kcal前後と変わりなく推移してきたが、70年代にはほぼ2,200 kcalであった摂取量が、2008年には1,883 kcal (20歳以上)に低下した。供給量と摂取量の差が廃棄された食料の量に等しいとすると、70年代には消費エネルギーの18%相当量が廃棄されたのであったが、2008年には廃棄されるエネルギーは30%近くまでになった。供給エネルギーと消費エネルギーの差は、年々拡大しているのである。平成18年度における、日本の飼料用を含む穀物自給率は27%で、カロリーベースの自給率は連続横ばいの40%であった。これでは「世界中から穀物をかき集めて、まさに飽食し食べ散らかしている」と言われても抗弁することができない。

 

今日の社会経済システムの中では、個人の食生活スタイルを再構築しても、その直接的な影響はごく些細なものに過ぎないかも知れない。しかし些細と見える変化も、家庭から始まって食料問題、環境問題などに影響を及ぼし、社会経済システム転換の引き金になる可能性を潜ませていることを見逃してはならないだろう。

 

以上は筆者の-巻頭言『食生活スタイルを環境保全型に再構築』、化学と生物、45 (11),739 (2007)-を数値などを新しくしたが、それ以外はおおよそ原文のまま再掲したものである。なお、平成21年度筑波大学生命環境学群生物資源学類が、推薦入学試験の小論文選択問題2問中1問に、これを元の文章のまま用いて、設問2題を与えて回答させた。

 

9 沖縄の長寿食と「26ショック」

沖縄県民は長年、男女ともに長寿日本一だった。ところが、200212月に公表された2000年時点における都道府県別平均寿命表では、女性は全国で1位の86.1歳であったが、男性の平均寿命は77.64歳(全国平均77.71歳)で全国26位に転落した。2005年までの5年間でも、寿命の伸び率は全国で最低であった。このことは沖縄県民にとってショッキングなことで、俗に「26ショック」と呼ばれている。

 

26ショック」の原因は「伝統的な長寿食の食生活から『栄養バランスの崩れた都会型食生活に移行』した結果、多くの成人男子がメタボリック・シンドローム体型になったことにある」、と分析されている。肥満者が多くなった原因として、運動不足(車社会で余り歩かない)、過食、日本の都道府県中で最も高い脂肪摂取量、野菜の摂取不足、過剰な飲酒に加えて、慢性的な失業によるストレスなどが挙げられている。しかし、沖縄県の人口10万人あたりの長寿率、百寿率(人口10万人当たりの100歳以上の高齢者数)は依然として全国都道府県中で首位を占めていることからか、男性の平均寿命が全国で26位に転落した「26ショック」を、当の沖縄男性はさほど深刻に受け止めていないように見受けられる。なお、尚弘子琉球大学名誉教授が「26ショック」に関するブログを公開している:http://longstory.blog.so-net.ne.jp/2009-02-10

 

沖縄食の特徴は「素材」×「調理法」×「摂取法」にあるといわれる。その素材は、ゴーヤ、モズク、パパイヤ、フーチバー、グアバ、島豆腐(木綿豆腐)、根菜類、昆布、黒糖、豚肉(よく食べるようになったのは、戦後のことであるが)などが特徴的である。強い紫外線と亜熱帯性気候のもとで育った野菜類には、抗酸化性物質やミネラルの蓄積量が多くなる傾向がある。飲料水には、琉球石灰岩から湧出した硬度~200程度(那覇市水道水)の、カルシウムやマグネシウムの豊富な水が用いられる。なお本州水道水の硬度は10100、京都市水道水42;伏見の御香水44である。

 

これらの素材を用いて、食材の旨みを損なわない低塩分の調理、長時間煮込んだ後分離してきた豚脂を取り除いた料理、肉と野菜の同時摂取などによって、コレステロール吸収や脂質過酸化の抑制が期待できる。沖縄県人の脂肪摂取量は全国都道府県中で最多量で、従って肥満率も高いが心疾患、脳卒中、がんによる死亡率は最も低い。特徴のある食材(豆腐、豚肉、瓜類、野菜、昆布等);食塩量が少なく、タンパク質とミネラルのレベルが高い食事;温暖な亜熱帯気候とゆったりしたライフスタイル、などを持続することによって、早晩、「26ショック」は払拭されるものと期待したい。

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