口語訳:神倭伊波禮毘古命がそこから半島を廻って熊野村に到ったとき、大きな熊が突然山から出現し、またすぐに消え去った。神倭伊波禮毘古命は急に気が遠くなり、また皇軍の兵士たちも気が遠くなって、倒れ伏してしまった。この時、熊野の高倉下<たかくらじという人名>が横刀を持って天神の御子の伏せっているところにやって来て、その刀を献げたところ、天神の御子は目を覚まし、「何と長いこと眠っていたものだ」と言った。その刀を受け取ると、熊野の荒ぶる神たちはみな自然と切り倒されてしまい、伏せっていた兵士たちもみな目を覚ました。
そこで天神の子は高倉下にその刀を手に入れた状況を問いただしたところ、「私は夢で、天照大御神と高木の神が建御雷神を呼び寄せ、『葦原の中つ国は大変騒がしい。私の御子たちもえらいことになっているようだ。あの葦原の中つ国は、お前が独力で平定したようなものだから、ちょっと降ってきてはくれまいか』と言うのでした、すると『私が降るまでもないでしょう。あのとき働いた太刀がありますから、それを降しましょう。そのやり方は、高倉下の倉のてっぺんに穴を開けて、そこから落とし入れることにしましょう』と答えました。そして私に『お前の倉のてっぺんに穴を開けて、この刀を落とし入れておく。後はよろしくこの刀を天神の御子に届けてくれ』と教えました。そこで夢の教えの通り、朝早く私の倉に行ってみると、本当に刀があるではありませんか。そういうわけでこの刀は、あなたにお届けする次第です」と答えた。
神武天皇はよく眠っていました。
すぐに目を覚まして言いました。
「わたしはどうして、こんなに長く眠っていたのか?」
そう言うと、毒に当たっていた兵士達もすぐに目を覚まして起きました。
それで皇軍は中洲(ウチツクニ=大和のこと)へと向かおうとしました。しかし山が険しくて通る道がありません。それで行ったり来たりしていたのですが、それでも山を越えることが出来ません。
その夜に夢を見ました。
天照大神は天皇に教えました。
「わたしが今から頭八咫烏(ヤタノカラス=ヤタガラス)を送ろう。それを郷導者(クニノミチビキヒト)としなさい」
頭八咫烏(ヤタノカラス)が空より駆け下りて来ました。
天皇は言いました。
「この鳥がやって来ると、夢にお告げがあった。天照大神は偉大であり、すばらしい神だ。わたしの祖先の天照大神は天下を治めるこの仕事を助けようと思ってらっしゃる」
この時、大伴氏(オオトモノウジ)の祖先の日臣命(ヒオミノミコト)は大來目(オオクメ)を率いて、元戎(オオツワモノ)督將(イクサノキミ=将軍の意味)として、山を踏み開いて進み、鳥(=ヤタノカラス)の向かう所を探し、見上げて追いかけました。
ついに菟田下縣(ウダノシモツコオリ)に達しました。道を穿(ウガ=かき分けて進むこと)ってたどり着いたので菟田穿邑(ウダノウガチノムラ)といいます。穿邑は于介知能務羅(ウガチノムラ)といいます。
神武天皇は日臣命(ヒノオミノミコト)を褒めて言いました。
「お前は、忠心があり、勇敢。それに先導をつとめた。
これより、お前の名前を改めて道臣(ミチノオミ)としよう」
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