2017/07/03

日本の日常の食事と味わいの特徴(日本の食文化とは何か/農林水産庁Web)

1 現代日本の食材と料理はどのように把握できるか

現代の日本の食は多様であり、食材やメニューの数も極めて多数である。特に、新しく広まってきた料理や食材は、伝統的な料理のカテゴリーでは捉えきれない部分が多い。

 

そこで、料理や食材をいくつかのグループに分類して把握する試みがなされている。前出の、味の素「嗜好調査」では調査対象とした80種類の食材と、120品目メニューに対する嗜好データについて多変量解析を用いて因子分析を行い、嗜好性の面から料理間の距離を整理し、いくつかのグループに分類している。材料や調理法による分類ではなくて、嗜好の特徴からグループ分けした結果である。その分類は、日本の日常食の種類の大まかな把握を可能にしている。

 

4 食材の分類

グループ

分類される食材(因子の大きな順)

ü  野菜・キノコ:キャベツ、ゴボウ、ほうれん草、タマネギ、だいこん、れんこん、なす、生シイタケ

ü  果物:いちご、ぶどう、みかん、さくらんぼ、なし、バナナ、グレープフルーツ、柿

ü  魚:いわし、アジ、サンマ、カツオ、ブリ、はまち、生サケ、アジの干物、たら、しらす

ü  魚以外の魚介:ホタテ貝、うに、かに、えび、牡蠣、たらこ、いくら、あさり、いか、タコ

ü  肉・卵:豚肉、牛肉、鶏肉、鶏卵

 

5 メニューの分類

グループ

分類される食材(因子の大きな順)

ü  軽食:たこ焼き、お好み焼き、ピザ、肉まん、ハンバーガー、カップ麺、コーンフレーク、サンドイッチ等

ü  一皿主食:焼きそば、チャーハン、ラーメン、カレーライス、スパゲティーミートソース、オムライスなど

ü  クリームソースメニュー:クリームシチュー、グラタン、ポタージュスープ、コーンスープなど

ü  肉メニュー:とんかつ、焼き肉・鉄板焼き、ビーフステーキ、カツ丼、すき焼き、牛丼、焼き鳥、鶏から揚げ、天丼、天ぷらなど

ü  野菜・豆:ひじきの煮物、きんぴら、ほうれん草のおひたし、野菜サラダ、酢のもの、煮豆、肉じゃが、豆腐

ü  和風ご飯メニュー:のり巻き、ちらし寿司、炊き込みご飯(かやくごはん)、にぎり寿司、おにぎり

ü  魚メニュー:煮魚、照り焼き、味噌煮、塩焼き、バター焼き

ü  汁物:わかめスープ、吸い物、すまし汁、コンソメスープ、みそ汁、中華スープ、けんちん汁、おかゆ、雑炊など

ü  水産練り製品:ちくわ、かまぼこ、さつま揚げ、油揚げ、厚揚げ、ハム

ü  菓子・菓子パン:和菓子(ようかん・もなか)洋生菓子(ケーキ・シュークリーム)チョコレート、アイスクリーム、菓子パン、せんべい、おかき、など

味の素「嗜好調査」2000、より

 

味の素の調査は2000年のものであり、そこには世代間の嗜好の違いが顕著に表れている。しかし、この違いは単なる世代間の違いのみならず、戦後50年の時代の推移の影響も混じっている可能性がある。当時の50才台の嗜好は、時代背景の異なる今の50才代の嗜好と同じかどうかは後年、再検討される必要がある。

 

2 最近の変化

食の変化は激しい。流行の料理や食品も、たちまち他のものに取って代わられる。2000年調査から約10年後にあたるごく最近のデータとして、朝日新聞が2009年に読者アンケート(アスパラクラブ会員対象)によって、カレーライスとラーメンに対する嗜好を特集した(20091017日土曜版be)ものがある。両者は今では国民食の双璧であることが浮き彫りにされたが、その比較の際に、同紙面ではこれら以外の好きな料理も調べている。「カレーライスとラーメン以外ならば」として回答者があげた国民食は

1位 寿司、2位 そば、3位 うどん、4位 おにぎり、5位 みそ汁、6位 コロッケ、7位 ハンバーグであった(回答者数7,253人)。味の素の調査とはメニューの分類法が異なるので同列に比較することはできないが、国民の嗜好の全体像は、味の素の5000人調査から10年たった今も大きくは変わっていないと言えよう。

 

朝日新聞の読者調査で23位にランクされたそばとうどんに関しては、川口らの調査によると、札幌から静岡まではそば屋が多く、名古屋から福岡まではうどん屋が多いことが明らかになっている。(川口真規子:うどんだしと具材—日本の東西による違い、おいしさの科学2009 10-17頁)

 

うどん屋とそば屋の店の数の比は、東京区部1.09で蕎麦屋が多い。川崎で1.13、仙台1.16、千葉1,12、静岡1.10でいずれも蕎麦屋が多いが、名古屋では逆転して0.91、京都0.96、大阪0.86、神戸0.88、広島0.82、北九州0.93といずれもうどん屋の方が多い。(同論文のデータから計算した)

 

II 日本の日常の食事と味わいの特徴

日本には、伝統的とも言える各種の食素材や調味料があり、それらに対する嗜好には根強いものがある。日本の味覚として特徴的と考えられる、いくつかの食材や調味料あるいは「コク」に代表される嗜好の表現などについて概説する。

 

1 出汁の味わい

日本の料理の味わいとして、最も重要なのは出汁(ダシ)である。ダシは吸い物のベースとしてだけでなく、煮ものなど様々な日本の料理の下地として使われる。日本の伝統的な料理店では、店の基本的なスープとして毎日ダシを引き、これを各種の料理に使用する。店の味を決める要素であるため、ダシは極めて重要視される。

 

日本で最も一般的に使われるダシの材料は、カツオと昆布である。地方によって多様な魚介類や、その干したものからうま味が抽出される。肉類、骨、内臓、茸、野菜を煮込むことによって得られるうま味液もダシである。

 

昆布やカツオ節など乾燥させた素材から、水や湯を使って出汁を抽出する。溶け出てきたアミノ酸、ペプチド、有機酸、糖類、さらに揮発性の無数の成分などがダシの味わいの主体となる。

 

ダシの味の主成分は、うま味と塩味である。うま味は昆布から溶け出てくるグルタミン酸ナトリウムやアスパラギン酸ナトリウムなどのアミノ酸類と、カツオ節のイノシン酸、シイタケのグアニル酸など核酸類から得られる。食材中のイノシン酸は細胞のエネルギー源であるATPの分解産物であり、イノシン酸とよく似た構造のグアニル酸は、細胞の遺伝情報伝達を司るRNAの分解産物である。アミノ酸とこれらの核酸が合わさると、相乗的にうま味が強化される。日本のダシは、昆布と鰹節を使うことによって、うま味を相乗的に強化したものである。

 

日本だけでなく、世界中の料理がこのようなうま味の抽出物を基本の味として利用している。グルタミン酸の多いトマトや核酸に富むアンチョビソースやキノコのスープなどもダシの味わいと共通部分がある。

 

うま味は甘味、塩味、酸味、苦味、と同じ基本的な味であり、他の味の組み合わせによっては作り出せない。うま味が基本味として世界中に認知されるようになったのは最近のことである。それまでは、うま味という言葉は世界にはなかった。日本では、昆布のダシを昔から味わっていたので、この味がうま味であるという100年前の池田菊苗の発見は比較的容易に受け入れられたが、海外の研究者や料理人たちの反応は長い間冷淡であった。日本人を中心とする研究が進められ、うま味の認知を高める活動も積極的に行われた。

 

この間、うま味が他の味では合成できない独立した味であることが実証され、その後、舌の表面にうま味をキャッチする機構が存在することや、うま味だけを伝える味覚神経があることなどが発見され、独立した味としてのうま味の認識が世界中に広まってきた。

 

砂糖の甘味は、舌の甘味受容体によって感じられる。味の受容体というのは、味成分をキャッチして神経に信号を伝えるシステムの入り口にあるたんぱく質のことである。同様に、舌の表面にある「うま味受容体たんぱく質」に、アミノ酸や核酸などの食品成分が結合してうま味が感じられる。グルタミン酸などのうま味を受容する受容体の候補として最初に見つかったのはmGluR4と呼ばれたタンパク質であった。グルタミン酸やアスパラギン酸と結合して、神経に刺激を与える可能性がある。少し後に、もう一つのうま味受容体候補として、T1R1/T1R3が発見された。それぞれに関する研究は現在も進められており、どちらかまたは両者が共にうま味の受容に関与しているのは確かであると言える。

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