2017/12/19

なぜ日本食が栄養学的にも優れているのか/日本の食文化とは何か/農林水産庁Web

3 なぜ日本食が栄養学的にも優れているのか

日本型食生活を支える食事、つまり日本食(和食)とは、日本人になじみの深い食材を用いて、伝統的な主食、主菜、副菜がそろった食事のことで、日本の風土の中で発達してきたものである。生食、素材の味を生かした薄口の味付け、そして繊細な盛り付けの3点が日本食の特徴とされる。

 

日本食を中心とした伝統的な主食、主菜、副菜がそろった食事を摂ることによって、健康の維持増進に必要なエネルギーとバランスの取れた栄養成分を、ごく普通に補給することができる。ヒトの血圧は、植物性タンパク質の摂取量と逆相関することが知られているので、植物性食材の多い日本食では、食塩を摂りすぎなければ、本来、高血圧になり難いのである。

 

日本食は、かつて中性脂肪(トリアシルグリセロール)を低減する食事療法に用いられたことがあった。その低カロリーで獣脂のような飽和脂肪が少なく、コレステロール低減効果があること、などが知られていたからである。このような日本食の健全性は、「日本人男女の平均寿命が、長年、世界一である」という事実が証明していると、理解されている。

 

日本食の三大栄養素:たんぱく質(P)、脂肪(F)、炭水化物(C)の、適正な摂取バランスとして、厚生省(当時)が、「第六次改定日本人の栄養所要量」(平成1216年度使用)において、摂取する総エネルギー量に対して、PFC=1020%2025%5070%の割合で摂取することを推奨した(高齢者、乳幼児を除く)。食物繊維の摂取量も、「第六次改定日本人の栄養所要量」から、望ましい栄養素(成人で10 g/1,000 kcal)として策定された。

 

なお、禅宗で獣・魚肉食を禁じて、植物性食品のみの禅的食事をする理由(少なくともその一つ)は、睡眠時間が短くなる(従って修行のための時間を長くとれる)からであって、単に肉欲を抑制するだけのためではないという(五木寛之「息の発見-対話者玄侑宗久」、p.2052122008, 平凡社)。

 

4 米飯給食はさらに改善する必要があるのではないか?

文部科学省の米飯給食実施調査の結果(平成1851日現在)によると(http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/kyusyoku/07022019/001.htm)、米飯給食実施率は99.7%(学校数31386校)に達し、1週当たりの平均実施回数は2.9回にも及んでいる。しかしながら、小学校の教員や給食担当の管理栄養士、栄養教諭などからは、「日本食の健全性が世界中に認められているというが、回数が増えてきた米飯給食では残食が以前よりも、目に見えて多くなった」という悲鳴とも聞こえる意見が伝わってくる。小中学校の米飯給食は、質的にも改善する必要があるようだが、これは家庭食からの乖離が著しい(家庭での米飯食が少なくなった)からであろう。

 

5 人間の最大寿命とその延長戦術:摂取カロリーの制限

文語訳旧約聖書の創世紀第63節には、「我霊永く人と争はじ 其は彼も肉なればなり 然れど彼の日は百二十年なるべし」と、人間の最大寿命がおよそ120年であるという。公式記録上もっとも長生きしたのは、フランスのジャンヌ・ルイーズ・カルマン (122164日)で、日本人としては泉重千代(120185日)である。

 

南方熊楠によると、鎌倉時代に書かれた「養生教」にも、「人生じて一百二十年 中寿は百年 下寿は八十年にしておわんぬ 然らざるはみな夭するのみ」とあるという(南方熊楠、「百二十年の寿命」、南方熊楠全集五、p.4961972、平凡社)。ヒトの最大寿命は、昔も今も変わっていないのである。なお、厚生労働省がまとめた平成20年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は男性79.29年,女性86.05年で、いずれも過去最長であった。

 

このように人間の最大寿命は現在までのところ、およそ120年であると理解されている。人間以外の動物の最大寿命は成長期の57倍であることが判明している。例えば犬の成長期は2年、寿命は約1014年;馬の成長期5年、寿命2535年、つまり動物の成長期間の57倍が、その動物の寿命に相当している。このことを、そのまま人間に当てはめると、成長期が2025年であるとすると、人間の最大寿命は100175年ということになる。人類は今なお夭折しているのかも知れない。

 

人間の最大寿命、現在のところ120130年をそれ以上に引き延ばすことが可能だろうか?

 

イギリスとロシアの科学者の中には、「それは可能だ、人間は1000歳までも生きられるはずだ」と主張する研究者がいる。人間の通常細胞は、分裂増殖できる回数がほぼ50回止まりで、その後は分裂を停止して死滅する、つまり、年齢120130歳で老衰死する。これに対してガン細胞は不老不死、際限なく分裂・増殖を繰り返すことができる。

 

ガン細胞がなぜ不老不死であるのか、そのメカニズムが解明されれば、それを応用して人間の寿命を何百歳にも延長することも決して不可能ではない、と考えられる。人間が何百歳も生き延びることができる社会で、「ヒトは果たして、幸せな、ヒトとしての尊厳を保ちながら、充実した生活を送ることができるのだろうか?」と、この種の研究に対して疑問を投げかけざるを得ない。

 

アポトーシス(プログラムされた細胞死)のメカニズムが研究され、人の加齢や老化、従って寿命は遺伝的にプログラムされている、と考えられたことがあった。成熟期間が完了すると、「加齢遺伝子」が人をして死に赴かせるというのである。しかし、最近の研究によると、どうもそうではないらしい。加齢による変化は単なる疲弊にすぎず、死は正常な維持・修復のメカニズムが衰えた結果である、というのである。従って、維持・修復に関係する遺伝子を活性化して健康状態を改善することができれば、寿命を延長することができるはずだ、と考えられる。そのように考えると、維持・修復に関与する遺伝子は「加齢遺伝子」とは逆の機能を有する「長寿遺伝子」ということになる。

 

この「長寿遺伝子」発見のきっかけになったのは、ハーバード大学のD. A. シンクレアの単細胞の酵母を使った研究であった。酵母は出芽、つまり細胞分裂によって増殖するが、その平均分裂回数はおよそ20回であり、そこまで分裂すると親細胞は分裂能力を失って、アポトーシス≡プログラムされた細胞死を引き起こす。ところが研究者たちは、突然変異させた酵母の中に寿命が30%延長したものを見つけだし、これが長生き遺伝子サーチュイン(Sirtuin)の発見に結びついた。

 

D. A. シンクレアは、マサチューセッツ工科大学のL.ガランテとの共同研究で、この遺伝子のつくるタンパク質は補酵素、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD)の存在下に、細胞核の中でDNAに巻きついているヒストン・タンパク質を脱アセチル化して活性化し、その結果、細胞分裂の際にできる環状DNAの生成を防ぎ、細胞は若さを保ち続けるということを突き止めたのであった。

 

酵母の細胞分裂回数が増えたからといって、それがヒトの寿命延長に結びつくと即断することはできないので、当初はこの研究成果に関心を寄せる研究者は少なかった。しかしその後、酵母の寿命を延長する遺伝子SIR2によく似た遺伝子が、ヒトを含む哺乳動物にもあることが分かった。この遺伝子はヒトではSIRT1と呼ばれる(酵母の遺伝子SIRと区別するために、SIRTが追加された)。

 

また、カロリー制限(節食)がヒトの寿命延長に役立つことや、飽食を続けると早死にすることは以前から良く知られていたことであるが、その機構がサーチュインの役割として説明することができるようになった。カロリー制限が細胞中のミトコンドリアの呼吸能を高め、このサーチュインの働きに必要なNADの生成を促すためであると考えられている。

 

カロリー制限、つまり食事制限と並んで、以前から赤ワインの飲用が健康に好ましい影響をもたらすことが喧伝されてきた。この赤ワインに含まれるポリフェノールの一種レスベラトロールは、サーチュインを活性化することが判明している。赤ワインのポリフェノールには多くの種類があり、いずれも大なり小なりこの作用を持つが、特にレスベラトロールは活性が高い、と言われている。ショウジョウバエにレスベラトロールを与えると、好きなだけ食べていても長生きしたと言う。この実験結果から類推すると、レスベラトロールのように、人のサーチュインを活性化する物質が見つかれば、不老長生の妙薬になるだろう、と期待される。

 

フランス人はコレステロールを多量摂取しているにも関わらず、虚血性心疾患の発症が低く、平均寿命も長いのは、「赤ワインを飲むからである」とされ、このことはフレンチ・パラドックスと呼ばれた。

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