2018/03/12

京都人の食生活と食材の流通量の変化/農林水産庁Web

千年の都であった京都では、宮中の有職料理をはじめとして、寺の精進料理、茶の湯の懐石料理などが京料理として有名である。しかし、庶民の日常の食事は古くから、親から子へ、子から孫へ伝え守り続けられた「京のおばんざい」であるお惣菜が中心であった。四季折々にそれぞれの家庭の種々多彩な味があり、その食材としては主に塩干魚介類や海産物、また、美味しい京の伝統野菜などが用いられてきた。

今は、これら庶民の和の食文化も薄れてきているが、この半世紀、京都人はどのようなものを主に食べてきたのか、京都市場の流通食材の変化を見ながら、その特徴に触れてみたい。

 

1)京都市場の食材入荷量の変化

京都市場の食材入荷量は、約半世紀前の昭和35年度と豊かな社会になった昭和55年度及び、平成22年度現在を比較して見ると、野菜は1.7倍まで大幅に増加したあと、緩やかではあるが順調に伸びて概ね2倍近くまで増加してきている。一方、果物は2倍以上急激に増加したが、反転して急激に減少して昭和35年当時以下にまで入荷量が減少してきている。魚介類は、やや増加傾向にあったものの、その後大幅に減少し昭和35年の半分以下までと大きく落ち込んでいる。肉類は、横ばい状況から同様に半分以下まで減少傾向をたどっている。

 

京都市場の変化と、国民1世帯当りの年間購入量の変化を昭和55年対比で見ると、京都市場では野菜が伸びているのに国民購入量は減少、一方、果物、魚介類、肉類の京都市場入荷量は、国民の購入量の減少傾向よりも大きく落ち込み、特に、魚介類と肉類の落ち込みが大きい。

 

京都の市場は野菜に強く、果物や魚介類、肉類に弱い構図となっており、京都人の食生活は野菜を主とした伝統的な食生活がうかがえる。

ただ、市場への入荷量については、市民の食事志向(食文化)だけでなく、地域の特殊事情、市場間競争や市場外流通量の強弱、加工食品や輸入食料品の増減傾向、お惣菜購入や外食の多寡等による影響も大きい。

 

京都市場において、ここ半世紀間に流通している主な生鮮食料品(京都市民が日常的に食べている食材)の上位品目と、その変化は次のとおりである。

 

(a) 野菜 ~日常野菜は増加、京野菜は順調、日本カボチャは激減~

主要5品目

ジャガイモ・ダイコン・ハクサイ・キャベツ・タマネギ

次の8品目

トマト・レタス・ニンジン・キュウリ・ナス・カンショ・カボチャ・ゴボウ

50年前から今日までを比べると、野菜の入荷総量は2倍近くにまで順調に伸びて来ている。中でも、長ダイコン、メークイン、レタス、トマトの増加が大きく、西洋ニンジン、西洋カボチャ、ブロッコリー、生シイタケ、シメジ、ネギ、ホウレンソウ等も伸びている。

また、外国野菜のセルリー、グリーンアスパラ、チンゲンサイなども順調に伸びてきている。

 

一方、金時ニンジン、日本カボチャ、漬物用ダイコンは大幅減少、白芽イモ、カンショ、ゴボウ、サンドマメ、京タケノコ、フキの減も大きい。

京野菜であるミズナ、ミブナ、九条ネギ、聖護院ダイコン、聖護院カブラ、賀茂ナス、エビイモ、伏見トウガラシ、堀川ゴボウは順調に入荷、京タケノコは大幅減。

京都近郷産地の野菜は農地面積の減少や後継者不足等もあり、入荷量は年々減少してきている。(昭和35年の37,170tが、平成22年には66%減で14,681tとなっている)

 

(b) 果物 ~バナナは増加してきたが近年減少、在来果物より新種や輸入果実が堅調~

主要5品目

バナナ・スイカ・ミカン・リンゴ、ナシ

次の6品目

モモ・カキ・ブドウ・イチゴ・メロン・パインアップル

果物の入荷総量は昭和55年頃までに2倍以上に急増したが、その後は急速に減少し、ほぼ50年前より若干減少している程度までに落ち込んだ。その主な要因は、バナナとミカンの入荷量が大きく影響している。

バナナは、輸入の拡大に伴い、荷量は順調に増加してきたが、15年前から半減し始め、その後はほぼ横ばいの状況にある。また、多くの人に食されてきたミカンなどの柑橘類、スイカ、リンゴ、ナシ等は大量に入荷していたが、現在は大幅に減少している。柑橘類ではオレンジ、ネーブル、グレープフルーツが健闘している。

 

リンゴは酸味のある国光、紅玉は激減し、サンフジが増加。ナシは二十世紀青梨から、水分が多く甘みの高い赤梨(三水)へシフトしている。スイカは重さが原因で敬遠気味。モモ、カキも近年は大幅に減少している。

ブドウ、メロン、パインアップルは増加してきたが、その後はやや減少傾向にある。ブドウは小粒のデラウェアから、大粒で甘い巨峰やピオーネが増加している。増加傾向にある果物はイチゴである。また、サクランボも順調に伸びている。

京都産の果物(ナシ、カキ、クリ、イチジク等)は入荷量が激減している。(昭和35年の5,026tが、平成22年には8%の421tまで大幅に落ち込んでいる。)

 

(c) 鮮魚 ~マダイ・ブリ・サケが増加。マグロは堅調。ハモ・アマダイは大幅減~

主要7品目

マグロ類・ブリ・マダイ・サバ・イカ・サンマ・サケ

次の9品目

ハマチ・ハモ・アマダイ・タコ・タラ・サワラ・イワシ・カツオ・ヒラメ

50年前と比べると、入荷総量は約6割減と大幅に落ち込んでいる。大きな要因は練り製品に用いられてきたグチ、ニベの入荷がなくなり、アジ、ハモ、イカ、サバ、イワシ、タチウオなどの落ち込みが大きい。クロマグロ、メバチマグロの入荷は半減しているが、キハダマグロは大幅に増加し、マグロ類全体で見ると、ほぼ横ばいである。エビ類は減少傾向にあるが、冷凍エビのブラックタイガーは増加。鯨肉は、調査捕鯨ものが多少入荷する程度で鯨肉文化は崩壊した。

 

増加しているのはサケである。ほとんど入荷が無かったが海外の養殖サケ(アトランティックサーモン)を含めると近年大幅に増えている。生サンマの入荷も大幅に増加している。タラはフィレ加工されて大幅に増加。カツオも2割増加である。

養殖技術の発展により、ブリは2倍、タイは5割増となっており、また、ズワイガニは輸送技術の向上でロシア、北海道から多く入荷している。

 

(d) 冷凍魚 ~タコ、イカ、すり身大幅減、サバ、カレイ、サンマなど減、サケは横ばい~

主要5品目

サケ・タラ・サバ・サワラ・ズワイガニ

次の5品目

アカウオ・モンコウイカ・サゴシ・スルメイカ・ムキエビ

冷凍魚の入荷総量は、昭和55年前後までには3倍以上まで増加したが、現在は50年前の3割減である。タコ、イカ類、サバ、タラ、エビ類、鯨肉などが大幅に増加した反動が影響しているが、現在は、各種の冷凍魚がともに大きく減少している。漁獲量の減少や原料輸入から製品輸入に変わってきていることなどの影響が大きい。

 

50年前は、タコ、イカ類、すり身、鯨肉が大量に入荷していたが、現在はわずかしか入荷していない。タラ、サバ、カニなどの外、殆の種類の冷凍魚が大きく減少している。

増加傾向を維持し、ほぼ横ばいの状況はサケ、エビ類である。なお、最近では中国から値段の安い「骨なし冷凍魚(サバが主で、他にサワラなど)」が入荷し、病院食や高齢者用に販売されている。

 

(e) 塩干魚 ~京の食文化である塩サバの入荷は半減。塩サケ・塩サンマは横バイ~

主要6品目

塩サバ・塩サケ・塩サンマ・チリメンジャコ・スケソウコ

次の9品目

開干アジ・開干サンマ・身欠ニシン・茹でタコ・茹でイカ・干水カレイ・丸干シシャモ・丸干イワシ・塩カズノコ

50年前と比べると、京都の食文化である塩サバの入荷は半減している。塩サケは低塩フィレでの入荷が多く、紅サケ、銀サケを含むと横ばい。塩サンマは横ばい。チリメンジャコ、干カレイ、丸干イワシは2割の入荷減。身欠ニシン、塩カズノコは横ばいである。

練り製品である、かまぼこ、ちくわ等の入荷は大幅減となっている。

京都の正月のおせち料理に用いられる棒ダラ、干カズノコ、田作り等も大幅な入荷減となっている。


2)入荷している養殖魚介類

京都市場に入荷している養殖魚は、マダイを筆頭にブリ、サケ、フグ、ヒラメ、ハマチ、マグロ等であり、フグ、マダイ、ブリ、クルマエビは入荷量の89割近くが養殖ものである。高級魚としてハレの日の魚であったタイは養殖の増産により、現在は庶民が日常的に食せる食材になった。フグやブリも養殖ものであれば、安価に購入出来るようになった。マグロ類は、天然幼魚から大きくする蓄用が主流であったが、平成14年に近畿大学水産研究所が、世界初のクロマグロの完全養殖に成功。いまは量産化に向けた研究が進められている。

貝類ではホタテ貝、カキ、淡水魚ではウナギ、アユなどがある。アユは、ほとんどが養殖ものとなっている。

0 件のコメント:

コメントを投稿