2006/02/03

最後の戦い(フィギュアスケート特集part5)

 浅田選手は、いつも通りの飄々とした表情の落ち着いた演技で、SPトップの荒川を蹴落として、この時点で早くもトップに立った。

フィギュアスケート観戦の楽しみの一つに、競技後の得点表示を待つ間の選手の表情のドラマが挙げられるが、15歳の浅田選手の場合は他の選手に見られる内なる精神の葛藤はその表情には微塵も見られず、そこにあるのはただ得点が表示されるのを楽しみに待つだけの、あどけない少女の表情だけであった。

続いて登場した恩田選手は、過去にこれといった実績はない。専門家の見方はどうか。

<ジャンプは確かに良いものを持っていますが、国際大会での評価を見る限りそれほど多くの加点が望めるスタイルではないように思います。前に書いた独自の採点でも、その事を意識して特にFSでは低く抑えています>(フィギュアスケート資料室より引用)

やはり手厳しかったが、恩田選手としては持てる力を出し切ったと言えるだろう。意外にも(といっては失礼かw)、フリーでは村主選手に続く高得点を叩き出したが、この時点で前の三選手の後塵を拝したのは予想通りであった。

さて、いよいよ真打という感じで村主選手の登場である。

<世界選手権で2002年、2003年大会で連続して3位銅メダル。伊藤みどり以来となる、日本人選手としては2人目の複数年メダル獲得選手となった>

これまでの実績では、ピカイチだ。

<村主家は横浜で18代続く旧家であり、先祖は酒造職人。父が日本航空のパイロットだったため、3歳~5歳まで米国・アラスカ州に住んでいた。その後、日本へ帰国。英語が堪能。私立清泉女学院中学校・高等学校卒業。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒業(荒川静香は一年後輩)

妹の村主千香(東洋英和女学院大学在学中)もフィギュアスケート選手である。  非常に高い演技力から「女優」とも呼ばれている>Wikipediaより)

ファンが書いたものかやけにべた褒めだが、専門家の見解はどうか。

 <で、いざ蓋を明けてみれば、SPFSを高い水準で揃え、タイトルを取った昨シーズンの四大陸や一昨シーズンのGPファイナルに勝るとも劣らない、素晴らしい出来でした。マラソンに喩えるならNHK杯が2時間25分台、今回が21分台ぐらいの飛躍と言うか復調ぶりでしょう。彼女の勝負強さを見せ付けられた一方で、代表になるためにここまで仕上げないといけない、日本の層の厚さを改めて感じます。

前に書いた独自の採点を振り返ってみれば、PCSはまだ若干甘いかもしれませんけれど、3Sを三回転判定できるレベルだったのが大きく、直感的には総合でほぼ180点、メダルを期待できるパフォーマンスだったかなと思います>(フィギュアスケート資料室より引用)

事実、この日の村主の演技は抜群の出来だった。引用の中にもあるが、シーズン出だしは怪我の影響もあって振るわなかったとはいえNHK杯で2位、そして最後の全日本選手権では逆転で優勝を捥ぎ取った辺りは、やはりベテランの貫禄と言えるだろう。殊に逆転で優勝を捥ぎ取ったフリーの演技では、直前の浅田選手がかなりの高得点を叩き出していただけに優勝はどうかと思われたが、演技終了後には客席が総立ちになってのスタンディングオベーションが起こったのを見ても、観客たちにいかに強烈なインパクトを与えたかが窺い知れる。

その結果はとてつもない高得点であり、久しぶりに感動を呼ぶような得点表示後あのどよめきは、TVで観ていても鳥肌が立ったくらいだった。この村主の次に登場した中野選手は、相当にやり難かった事だろう。

<2002年、女子シングルでは伊藤みどり以来、10年振りにトリプルアクセルを成功させた。怪我で出場を断念した太田由希奈(同志社大学)の代役で出場したNHK杯では1>

最近、急激に力をつけてきた成長株だけに、過去の実績はこの程度であり寂しいが専門家の評価は意外に高かった。

<エレメンツはクリアにやってくれるので、突っ込みようがありません。今回特筆すべき事は、PCSINのところです。PCSのうち、観衆の反応や感動とよくリンクするのは、INのところかと思います。単純にこれの高い低いかではなく、SSと比べてどうかを見ると今大会の上位6人の中で、INSSとなっているのは、村主選手のSPと中野選手のSPFS3つだけです>

 <持てる技術が申し分なく音楽表現に注ぎ込まれたと見ていいでしょう。瞬間最高視聴率を記録したのも頷けます。四週で三戦と疲れもあるでしょうが、スケートに開眼した今なら連戦も成長の糧。今年の成績だけなら、充分代表になれました。3Aが回転充分で、その他もパーフェクトに滑れば総合170点台後半も不可能ではありませんから、あながち夢でもなかったでしょう。GPファイナル1位と3位の出ないオリンピックが、残念でなりません>(フィギュアスケート資料室より引用)

かなり高い評価だが、ワタクシの素人目にはやはり今ひとつインパクトに欠ける感は否めず、何と言っても「ステージ女優」を演じきったような村主選手の演技の後では、食い足りない観は否めなかったのである。

そして最後に登場して来たのは、安藤選手である。本来なら、最も期待のこもった拍手を持って迎えられるはずのアイドルだが、ワタクシを含め恐らくはこの日の安藤選手に期待している人は、俄かファンを除けば殆どいなかったのではないか、と言い切ってしまってもいいくらいに表情からして暗かった。

<世界選手権4位。14歳のときに出場した2002年ジュニアGPファイナルでは、女子の公式競技会では史上初となる、4回転サルコウを成功させた。

・ジュニアGPファイナル 2 (1位は太田由希奈(同志社大学)
・世界ジュニア選手権 2 (1位は太田由希奈(同志社大学)

という過去の実績を見てもわかる通り、中野もそうだが要するにそもそもが太田由希奈という選手が怪我をして出られなくなったためのタナボタと言えなくもないのである。

では、専門家の見解。

<五週で四戦はかなりきついと思いますが、初戦のロシアカップを除く3戦の中では最も良かったでしょうか。しかしSP・FSとも3Lz+3Loを決める事が出来ず、合わせて約10点もの失点があっては勝負になりません。4Sは結局一度もやらずじまいでしたし、やろうとしても本当は出来ないのではないかと思いますけれど、伝家の宝刀は鞘に納まっていてこそとも言えますし、不甲斐ない結果ながらオリンピックに出られるのですから、今度はぜひ跳んで欲しいなと思います>(フィギュアスケート資料室より引用)

結果は予想通り、一度も目立った転倒がなかったのが意外に思えるくらいに、まったく見所のないまま呆気なく幕を閉じたのであった。こうして全選手の演技が終わり、いよいよ五輪代表選手発表の時を迎えた。

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