2006/02/24

フィギュア荒川、最高の輝き(トリノ・オリンピックpart2)

 女子フィギュアスケートの荒川静香選手が、金メダルを獲得した。

トリノ・オリンピックでは、これまで「メダル候補」と期待された選手が総崩れ状態となっており、大会14日目まで消化してまだメダルが一つも獲得できないという、大変に厳しい状況が続いていた1976年のインスブルック大会以来「30年ぶりのメダルなし」という惨敗が、いよいよ現実味を帯びて来た危機的な状況の中でのこの快挙だけに、真に賞賛に値するものだ。

オリンピックの歴史を紐解けば、かつてベルリン大会が独裁者のヒトラーに国威発揚の場として利用されたのは有名だが、時代とともに世の中の価値観も多様化し、五輪に対してナショナリズムの匂いを嗅ぐのは、最早アナクロニズム以外の何物でもない。

今や技術、或いは経済など幾つもの分野で世界をリードする先進国として、圧しも圧されもせぬ存在となった日本が、今更五輪でメダルを一つも獲れなかったからといったとて、それほどの一大事ではないにのだ・・・と言うのは、あくまでも理屈ではわかっていても、各国がメダルを獲得していく中で、有力(と期待された)選手が次々に負けていく様を目の当たりにするのは、やはり理屈を超えた寂しさがある事は否定できないものなのだ。

そのような、まさに日本にとっては最悪の状況で迎えたのが、大会も終盤に差し掛かってようやく出番の廻って来た女子のフィギュアスケートであり、いわば日本にとっての最後の頼みの綱である。

実を言えば、個人的には当初から

(誰か一人でも、メダルを獲れるようなら御の字)

という程度に、それほど期待が高いとは言えなかったが、先に見て来たようなこれまでの「メダルゼロ」の惨状があっただけに

(何とか一人だけでも、表彰台に引っかかってくれないものか・・・)

と日本人としては、やはり祈りたい気持ちにもなろうというものだ。

もっとも、恐らくは多くの人がそうであったように、安藤選手に関しては正直ハナから期待していなかったから

(村主か荒川が頑張って、何とか表彰台に)

という思いの中、いよいよ競技がスタートした。

SPの結果は、荒川3位、村主4位、安藤は8位。トップはアメリカの新星・コーエンで、ロシアの誇る世界女王・スルツカヤが2位。もう一人のメダル候補にして、日本選手のライバル視された開催国イタリアのコストナーは11位と大きく出遅れ、事実上この段階でメダル争いからは脱落していた。

言うまでもなく、SPを終えた時点で34位につけた荒川、村主の二人は充分にメダル圏内であったが、また同時に微妙な位置とも見る事が出来た・・・

 日本にとって最も期待すべきシナリオは、上の二選手がミスをした上で日本の二選手が完璧な演技をして金・銀を独占する事だが、無論これは甚だムシの良いシナリオである。逆に最悪のシナリオは、下位の選手が一人でも高得点を叩き出し、日本の選手がミスを連発した場合だ。

これまでスピードスケートの加藤(4位)、岡崎(4位)、或いはフリースタイル・モーグルの上村(5位)など、別の競技で期待された選手が悉くあと一歩というところでメダルを逃して来ている現実を見せ付けられて来ただけに、これでまたしても4位と5位に並ぶような事があれば、それこそは目も当てられない惨状である。

そうした中で、注目のフリー演技がいよいよ始まった。最初に登場した安藤には、前にも触れたように個人的には期待するところはない。全日本選手権でさえ、有力6選手の中で最下位の6位だった事を考えるなら、SPの8位は彼女にしては上出来な方だ、という見方こそが妥当なのである。案の定、フリーではジャンプがまったく決まらず、またしても転倒を繰り返した。

愚かなマスコミは、当初から有力選手をそっちのけでこの安藤ばかりを採り上げ「4回転ジャンプ」などと囃し立てていたが、3回転はおろか2回転すら満足に跳べていない惨状で、世界の誰も出来ない4回転などが跳べるわけはないのである。ましてや練習ですら、殆ど成功していないというのにも関わらずである。練習で完璧にこなしていても、本番で同じように成功させるのが難しいのが五輪の舞台であり、練習で満足に跳べないものがプレッシャーの掛かる本番で成功出来る、と考えるアタマこそはどうかしていると言うしかない。

もっともどっちにせよ、日本選手の中では唯一メダルの可能性がないに等しい現実と、先物買いでの若さを考えれば言葉は悪いが、ヤケクソでチャレンジした精神そのものだけは評価出来るかもしれない。正直、今の安藤の演技では仮に奇跡的に4回転ジャンプが決まったとしても、基本的なスケーティングや表現力など、どの要素を見ても村主、荒川と比べあまりにも稚拙であり、いずれにせよメダルに手が届くとは思えかったが・・・ 

マスコミの論調では、最近の安藤について「調子が悪い」で済ませているようだが、調子の悪さもさることながら真実はズバリ、思春期に迎えた生理的な変化に対応が出来ていないのだろう、というのがワタクシの見方である。


何しろスタイルの悪さというか、お尻から下半身にかけてがやたらと鈍重そうで、自らその体型を持て余したまま途方に暮れている感じに見えて仕方がない。それがあの最近の悲壮な感じの暗い表情を生み、彼女の魅力だった溌剌とした若さが失われてしまっている、という悪循環に繋がっているのであろう。

演技を見ていてもどのジャンプにしろ、転倒しそうに見えてしまうのだ(実際、あまりに転倒ばかりしていたせいもあるのだろうが)

その点では荒川、村主の両者はジャンプの高さや派手さ、華やかさこそは(成功した場合の)安藤に遥かに見劣りするとはいえ、ミスを予感した場合に空中で組み立て直すだけの技術力と精神的な余裕を備えているだけに、着地でバランスを崩す事はあっても転倒する気遣いは殆どない安定感がある。ましてや、ジャンプとジャンプの間の繋ぎの部分での魅せ方となると、大人と子供というくらいに格段の差を感じずにはいられない。

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