2006/02/26

クライマックス(トリノ・オリンピックpart3)

 最終組の6人には、その村主、荒川が入った。長年、オリンピックのフィギュアスケートを見続けているワタクシとして、この最終組に日本選手が二人もエントリーされた事は感慨深いだけに

(ここまで来たら、何とか一人は表彰台に・・・)

と期待してしまうのも、無理からぬところだ。

6人のうち2番目に、SPでトップに立っていたアメリカのコーエンが登場したが、ここで転倒を含めて大きなミスがあったため、日本選手へのメダルの期待感は益々膨らむ。そんな中で登場して来たのが荒川だった。

昨年の五輪代表選考指定大会では、出場した三大会でいずれも15歳の浅田に敗れ去った荒川である。そして最後の全日本選手権では、SPでトップに立ちながらフリーで村主、浅田の両選手に逆転を許し3位に終わった事からもわかるように、基礎技術は高いものを持っていながら浅田の技術力や村主の表現力というような、これといったアピールのインパクトに欠ける印象が強かった。

ところがこの日に限っては、これまで見て来たどれよりも素晴らしく観客を魅了する、しなやかで美しい抜群の演技を見せ、本人もア然とするような高得点を叩き出したからビックリ仰天した。そしてこの時点で、不振を極めた大会の日本選手として、初の表彰台を確定付ける大任を果たしたのは、立派の一語に尽きる。

 その荒川に続いて、本来であれば「真打ち」という感じで登場するはずだった村主だが、この日はいつもに比べ登場して来た時からなんとなく、蔭が薄い感じがしたのは気のせいだったか。目の覚めるような長身と抜群のスタイルで、ダイナミックな演技を披露していった荒川に比べ、元々線の細さが目立つ村主だけに「氷上の女優」と称される、あの独特の演技力に総てがかかっていた。

観客を熱狂させ、大逆転で優勝を捥ぎ取っていった全日本選手権の演技が再現できるなら、荒川とともに表彰台も充分に望めるチャンスだったが、この日は細かいミスが重なり、残念な事に常々口癖のように繰り返している「観客と一体になった演技」には至らなかった。

アメリカ選手を挟み、残す演技者は女王・スルツカヤのみとなった時点で依然として荒川がトップ。「」になるか「」になるかの鍵は、女王・スルツカヤが握る事になった。

これまでの実績や現時点での地力から公平に見るなら、スルツカヤが普段通りの演技をして「金」を持っていく可能性が高いという見方が一般的だったろうが、実際には既に荒川が高難度の技をミスなく連発し、驚異的な高得点を叩き出していたこの段階で、プログラムの構成的に見てもスルツカヤの逆転は殆ど不可能であった(あくまでも後知恵だが)

本人もそれがわかっていたのか、意外にも出番前にTVに映された女王は、これまでに見た事もないような緊張に強張った表情をしていた・・・

(これは・・・ひょっとすると、ひょっとするかも・・・)

と、俄かに胸が高鳴る。そうした波瀾含みの中で、女王の演技が始まった。

演技開始からやはり極度の緊張に強張った表情に加え、最初のコンビネーションのジャンプが跳べないという大きなミスを犯すなど、いつものキレには程遠い。それでも、どうにか立ち直りつつあるように見えた終盤、見せ場となるジャンプで転倒し派手な尻餅をついてしまった。

アナウンサーが

(まさかの転倒)

と表現した通り、これまで見た事もないしまた予想すら出来ないような、信じられないシーンだった。

(やはり、これがオリンピックか・・・)

この瞬間に、荒川の「金」が確定したと言っても過言ではなかった。

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