2018/06/04

日本料理は庖丁文化/農林水産庁Web

2 鯛の活け作り

こだわりといえば鯛である。鯛は大体1.8キロから2.5キロぐらいが一番自分の好みのものである。明石の漁師がうまいのは、つりあげても網でとっても必ずとったらすぐにおしりから竹串を入れて、浮き袋を割って裏返った鯛を元の状態に戻すのである、それは鯛が深いとこからあがってくるので、おなかがぱんぱんにふくれてひっくり返って上に浮いているためである。そして持ち帰って水槽に入れて、そこでストレスを抜く。

 

鯛というのは、しっぽの一番先に黒い線が入っていて、ストレスが解消するとその線が消えてくる、というのが明石の漁師の話で、それが消えてきたころを目安にしておさめてもらっている。朝早くに来たら、すぐに首の骨としっぽの付け根の骨を切り、脊髄の上にある神経の穴に針金を通す。そうすると最初びくびくとするけれども、あとは全く動かなくなる。その後、たっぷりの水の中に入れて血抜きを行う。その血抜きが十分にできたら、うろこをかいて腹わたを出して水洗いをする。水洗いができたら、タオルにくるんで10度以下にならない冷蔵庫に入れて、10度から11度で入れておく。それを朝やっておくと、お昼のお客さんに使うときも晩のお客さんに使うときも、どんどんうま味がふえてきて夜は本当においしくできあがる。

 

一番いいのは朝しめて夜おろす、夜に三枚におろすときも、死んでいる鯛の身が包丁を入れるとピクピクあばれる。それが活ってる証拠なのである。だから死後硬直にならずにかみごたえがあって、イノシン酸のうま味がどんどんましているという状態になる。私はそれが好きで、ずっとそうしているのである。

 

2004年に日本料理アカデミーができたその翌年にフランスに行って、そのやり方を向こうの人に教えたことがあった。そのときはチュルボという大きな生きたヒラメでしたのだが、向こうの人はそんなことをして何になるのか、仏蘭西料理に必要ないといって見向きもしてもらえなかった、しかし最近ではそれが流行っているらしく、カルパッチョはみんな活け締めでやっているのである。

 

私は鯛の1.8から2.5キロの雌を好んでいるけれども、天然物なのでなかなかうまくいかない。淡路のハモは600グラムというのが好みでと、そういう難しいことを言っているけれども、やはり鯛もハモも造りにしたときに、大きい鯛だと一口大の造りにしたときにどうしても薄く切らないといけない、小さい鯛だと分厚く切らないといけない、そうすると口の中に入れてかんだときの触感というのは、薄くて大きいのと小さくて分厚いものでは、かみやすい大きさというのがまた違っている。それで1.8から2.5キロがちょうどいいということにこだわっているのである。

600グラムのハモは、骨切りして食べたときの身の分厚さというのが非常にいい厚さだと思う。もっと分厚いものを使う人もいるが、私は600グラムにこだわっている。

 

味付けについては、甘いものはお砂糖で味をつけているけれども、それに味醂を入れる、その配合は使う物によって違ってくるが、非常にうま味が違ってくるのである。それから辛いものでは、薄口醤油と濃口醤油それと塩との割合をいろいろにしている。それは薄口醤油と塩とか、濃い口醤油と塩とかいう使い方ではなしに、違う醤油どうしを使うことによって、非常に香りと辛さとうま味が変わってくるので、そういうものを使っている。酢については、酢の物というのは男性は余り好まないという結果が出ているが、その季節の3種類以上の柑橘類の絞り汁を使うことで、非常にまろやかな酸っぱさのうま味というのが出てくる。

 

3 日本料理は庖丁文化

日本料理は庖丁文化ともいわれている。片刃の庖丁というのはすばらしい切れ味で、料理人になったら一番最初に柳刃と薄刃と出刃をそろえるけども、それぞれに使い方が違っている。出刃なんかでも小出刃、オロシ出刃など大きさや刃の分厚さによって違いがいろいろある。ハモの骨きり庖丁は、とても重くて大きい幅のひろい庖丁で、それは重みによってリズミカルに切るというものである。小さい庖丁で骨切りすると力で切るから手が疲れてしまう。

 

私は、庖丁もそろそろ古くなってきて、新しいのに買いかえたいなといって包丁屋さんに相談したら、本焼き180万円といわれいまだに買ってない。本焼きは刀と同じ亜で、ハガネで今買ったら私よりはるかに長持ちする。うなぎでも、関東のうなぎさきと関西のうなぎさきでは全く違っている。関西のうなぎさきというのは小さい鉄の塊みたいな庖丁で、庖丁の背かたが丸く大きくなっていて目打ちをかんかんと叩いておろす。関東のものは薄刃みたいな形をしていて先だけがとがっている、いずれにしても寿司切り庖丁、ソバ切り庖丁など日本の庖丁は素晴らしいといえるでしょう。

 

何より片刃の庖丁の違いというのは、砥石で研ぐときにまず表を研ぎ、研げたら刃の先がやや裏にまくれる、今度は裏向けて修正する、その修正が大事なのである。その修正したときに砥石にあたる面というのは刃と背かただけ、この真ん中が砥石にあたらないのは、真ん中が少し凹んでいて八つ橋状になってるということ、表を研いで裏を仕上げたときに、上下しか当たらないのである。それがやはり片刃にしかない鋭利な角度がつく素晴らしい庖丁といえるでしょう。そういう庖丁文化というのも、日本料理の技術に大きく貢献してきたのである。

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