紆余曲折を経て、結局のところ次の仕事は後から出てきたものの、トントン拍子に話が進んだ「大手通信業者・VPN網検証環境でのNWの設計・構築」の件に決定した。
これまでは管理寄りのポジションだったが、今度は遥かに技術寄りの純粋エンジニア職であるところは、確かに希望通りである。Cisco認定資格を取得して、すでにン年が経過している。その間、長年希望しながら実現しなかった「Cisco環境」は大きな魅力だった。
Cisco環境に拘らずとも、他社のルータ等NW機器も殆どがCisco製品がベースになっていることを思えば、こうしたNW機器の設定や構築に携わる事の出来る現場こそ希望だった。それが「未経験の壁」に跳ね返され続け
(そっち方面からのオファーは、一生待っても来ないのだろうか・・・)
と、何度も諦めが脳裏を掠めた末に巡って来たチャンスだけに、大いに魅力を感じた。
これだけなら喜んで飛びつくところだが、問題は単価の低さである。条件的には厳しく、最低ラインにも大きく届かない額だった。
「この方面に関しては、知識はあっても実際に機器に触れた事は殆どないので。しばらくは内部で教育が必要になるというところで、スタートラインとしてはこの線でギリギリなんですよ・・・その代わりスキルアップに応じて、三ヶ月単位で査定の見直しをするというのが前提になります」
前年度の実績に基づき、結構な額の税金を払っていかなくてはならない事を考えると、実際のところは受けられそうもないような額であっただけに、正直かなり迷った。
(しかし三ヶ月本気で頑張れば、かなりスキルアップ出来るだろうから・・・三ヶ月は儲け度外視で、更新の時に吹っかけてやればいいか・・・)
実際に給料が安くなる分だけ生活レベルが下がるわけだから、それ自体困るという事情はあるものの、家庭を持っているわけではない独り身だけに、自分がそこそこの生活が出来ればよい。それほど金が必要だという欲もないなく、バカ高い税金を払った上で、それなりに今までに近い生活ができる額であれば問題はなかった。
そうした観点からすれば、前職に比べればかなり下がる(月10万程度の減収)のは事実とは言え、他に幾つかあったお誘いを蹴ってここを選んだのは、やはり長年Cisco環境での仕事を待望しながら
(結局オレに、チャンスは訪れないのか?)
と考えていた末に、ようやく巡ってきた大チャンスだったからであり
(これを逃したら、もうチャンスはないかもしれない)
と考えたためである。
そして恐らくは、そうしたこちらの心理を見越した相手が、足元を見てきているのもわかってはいたが、相手の考え云々この際は度外視して、ここは自らの意思を貫く事が最良と判断したのだった。
とはいえ、これまで殆ど経験のない未知の分野だから、モノにするまでは大変だろう事はわかっていたが、それだけの技術修行のチャンスは、そうそうあるものではない。まして元請け企業が公認での、ゼロからのスタートだ。
ところが契約の段になって、当初の半年単位ではなく3ヶ月区切りにして欲しいという元請けからの要請があり
「まったく未知の分野で3ヶ月で一定以上の成果を残すのは難しいから、当初の話の通り半年区切りにしてくれないと困る」
としばしのやり取りの末、結局当初の話の通り半年単位の見直しで落ち着いた。
「半年の間で、吸収できるものは最大限に吸収し尽くして次回交渉の席に臨み、回答次第では条件の良い現場に移るかもしれない」
と宣言もした。無論、半年の間で相手の要求に応えられるだけのスキルアップがなければ、途中でいつNGを出されるかもしれない厳しい契約になるのだから、こちらとしても明確な意思表示をしておく必要があったのだ。
実は当初から、所属会社の担当者には
「(Ciscoの)実機経験がないのを承知で
『自社の担当者が、内部で教育やフォローをしていくから問題ない』
ってのは、いかにも話が上手すぎる気がしないでもないが・・・」
と話してはいたが、元請けの営業担当者のいい加減さは、初日早々に露呈した。
大手町近くにある、客先で挨拶を済ませると
「では早速、検証ルームへ行ってください」
と言われ、使用するPCを持ち出すために課長が同行して移動したものの、肝心の元請け担当者はそっけない挨拶を交わしたのみで、ずっと放置状態に置かれたのだった。
「今は検証業務が忙しいため、しばらくは検証で経験を積んだ後に、ゆくゆくは設計などもやってもらう」
という事だった。検証は、元請けのV社が丸受けで受注をしており
『当社から3人が常駐しているから、最初の一ヶ月くらいは責任を持って教育や指導をして、その間に独り立ちできるようになってもらう』
という話だったが、実際にはV社の担当者は一人しかいなかった。検証は、そのV社の担当者一人が取り仕切っているのは事実だったが、それだけにかなり多忙らしく、とても教育やOJTなどをしているような余裕がないのは、誰の目にも明らかだった。
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