ところで家の冷蔵庫には、いつものように保冷パックに入れて仕事場に持っていくために、ペットボトルのお茶が冷やしてあった。
(折角だから、汗ビッショリになって頑張っている、あの作業員の帰りに持たせよう。ただし、あくまで上手く直したらだが・・・)
などと考えていたが、いつの間にかもう一人増えていたので、慌ててもう一本を冷凍室に入れて冷やし始めたのが、少し前だった。またその頃、関東地方に上陸すると言われていた台風がいよいよ迫って来たか、突如として猛烈な大雨が降って来ており
(この雨の中を、昨日みたいに自転車でネットカフェに通うのは、冗談じゃねーぞ・・・こうなりゃ、直すまでは帰すものか・・・)
という気持ちにもなっていた。
そうしてまたしばらく、時折繋がったかと思うとまた切れたりという繰り返しが何度か続き、その度にインターホンから
「今、どんな状況でしょうか?」
という確認が入った。
(あれだけ配線を切り替えたりした結果、繋がったり繋がらなかったりというのは変だな・・・なにか実験をしているのか、或いはやはりモジュラーが逝かれているんじゃないのか?)
などと考えながら、コンビニで買ってきた弁当を温め、さあ食べようという段になって、あたかもタイミングを見計らったかのように、インターホンが鳴った。
「申し訳ありません・・・お部屋のモジュラーを確認したいのですが・・・」
「いいけど、今から食事をしようと思ってたところだよ」
「私どもの方は、一向構いませんが・・・よろしいでしょうか?」
「まあ、いいけど・・・」
よりによって粗末なコンビに弁当を広げた、このタイミングになって部屋に入ってこようとは (*´m`)
そうして、作業者がモジュラーを手で触っていると繋がるが、手を離すと接続が切れるというパターンが何度も繰り返された。
「やっぱり最初にも言ったけど、モジュラーの調子がおかしいんじゃないの?」
「そのようですね・・・今から工事をしても、よろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ・・・どうぞ・・・」
工事といっても、壁の電源が集まっているパネルを外して、モジュラーを新しいものに付け替えるだけだから、10分程度のものである。その間に、こちらは弁当を食べ終わったが、時刻は既に21時を回っていた。
それまでは
(直すまでは、絶対に帰さんぞー)
などと考えていたが、現実にこうして汗ビッショリになって頑張っている二人の作業者を目の当たりにすると
(作業者は、食事もせずに大変だなー。もうこれがダメだったら、続きは明日にして帰って貰おう・・・)
と思っていると、ようやくにして約2日ぶりに接続が復活した。
「やっぱり、モジュラーだったか・・・だからワタクシは、最初に言ったろーが!」
「モジュラーなんて、そんなに壊れるものではないので・・・盲点でしたね・・・」
「地震の影響はないとか言ってたけど、やっぱり昨日の地震で圧迫されて不安定になっていたんだとしか思えない」
宅内ハブが壊れ、その上モジュラーも壊れきってはいなかったものの(それだけに、余計に事態をわかり難くしていた)調子がおかしかったのだから、今回に関しては原因の特定が難しかったのも確かに頷けた。
「それでは、いかがいたしましょう?
どうやら、直ったように見えますが・・・」
「まだまだ、信用できんわ・・・何しろ繋がっても、直ぐに切れてしまうのが散々に続いたし。今から10分くらい様子を見て、その間大丈夫なら取り敢えずはOKとしようか。その間に下(管理室)の荷物の片付けなどは、済まして貰ってていいよ・・・」
そうしてしばらく使ってみたが、明らかに安定した動作は復旧したと見ても良い、と判断できた。そして10分くらい経つと、インターホンが鳴る。
「どうでしょう?」
「どうやら、大丈夫みたいだ。安定しているし・・・」
「それでは私どもは、これにて引き上げさせていただこうと思いますが・・・」
「今、下にいるの?
降りていくから、待っててくれない?」
この土砂降りの台風の雨の中を、ネットカフェに行かなくて済んだ安心感から足取りが軽くなっていた。冷蔵庫と冷凍庫から、それぞれペットボトルのお茶を出してエントランスへ降りる。
「この度は、大変ご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ありませんでした・・・」
「いやいや、遅くまでありがとー。お茶を冷やしておいたから、持って行ってちょーだい」
「いやー、ありがとうございます」
一人は途中からだったが、最初に来た技術者の方は夕方5時前から4時間半くらい飲まず食わずだった筈で、その間にこちらの方は既に缶ビールを3本空けていた。
「最初は一人だと思ったら、いつの間にか一人増えてたから慌てて冷凍室に入れたんだけどね。作業が長引いたから、冷え過ぎちゃったみたいだな・・・」
「恐れ入ります・・・」
「本当は、冷蔵庫の中一杯にビールなんだけどね・・・車だからまずいよね」
「アハハハ・・・」
と最後は陽気な笑いとともに、二人の技術者はほっとした表情を浮かべながら帰っていった。
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