2007/07/03

謎解き(Mシリーズpart3)

  しかも直前になって、所属会社に見せられた契約書の文言では、一番下の方に注意書きで

 

「ただし、ユーザーの要求を満たす成果物が納品されなかった場合は、上記の対価が支払われる事を保証するものではない」

 

といった、実に胡散臭い文言が盛り込まれていた事も、頭の片隅に引っかかっていた。おまけに現場では、初日に出席したMTGの中で

 

「業務委託契約に関する監査の指摘に対応するため、業務委託を含めた派遣契約の見直しを行う必要がある・・・」

 

云々という話も飛び出すという、胡散臭さ満載という状況である。

 

担当者のふざけた態度もあって、早々にすっかり嫌気がさしてしまい、初日の業務終了早々

 

「というわけでなんだか騙されたような話だし、直ぐにも辞めさせてくれないか」

 

と、所属会社に電話を入れた。ボタンの掛け違いや、傷は浅いうちに処置をしておきたいという考えからだったが、結局は

 

「まだ1日だし・・・もう少し我慢して、様子を判断しよう・・・」

 

と却下される。が、この時点で、すでに長く続ける意思もなくなったため、先々また面倒な事になるかもという予感は始まっていた。

 

そうして、半ば開き直った翌二日目以降は、ともかくCiscoルータの自習に励む日々がしばらく続いた。忙しい担当者の放置状態は相変わらずだったが、それでもわからないところは嫌な顔をするのも構わず質問していきながら、徐々に基本的な設定を覚えていく。

 

この現場での展望には、期待するところはなかったものの

 

(せめてここにいる間に、触れる機器にはしっかりと触れて、少しでも経験を積んでおくのだ・・・)

 

という、割り切って考えであった。

 

 そのうちに出勤後に担当者から課題を出され、退勤時に進捗を報告したり、わからない部分についての質問をしたりという日々を繰り返しながら、いよいよ検証業務を行うようになった時は、気付けば一ヶ月ほどが経過していた。

 

1ヶ月も経過すれば、担当者の考え方もおおよそわかろうというものだ。

 

「まずは検証のお手伝いから、入ってもらいます」

 

この担当者の感覚では「手伝い」というのは、自分の助手のような形に付けて簡単な雑務などをさせようという考えはハナからないらしく、あくまでも全体の中のどこか一部分をゼロから丸ごとやらせるのだろう事は、見当が付いていた。そして予想通り、いきなりある依頼作業を丸ごと任された。

 

所属会社からお呼びがかかったのは、そうして試行錯誤を繰り返している時である。先にも触れたように、最初のMTGの席でクライアントのM社から派遣契約(業務委託なども含む)に関して、監査の指摘に対応しなければならないという話は聞いていたが、その絡みで7月から今の元請Serの手を離れ

 

「直接契約に切り替えてくれ」

 

というお達しがあったらしい。直接契約であれば、元請を介さずに何かと話が通りやすくてよさそうに聞こえるが、これまでこの分野では経験のないワタクシの盾となってくれていた、元請会社の担当者の援護は当てに出来ない中で、早くも成果を求められるという、無理難題を押し付けられるハメになったのである。

 

この1ヶ月の間に、Ciscoを始めNTTやら日立やらのNW機器については基本をマスターして、応用できるところまでのスキルを身につけた事は確かである。とはいえ、この道ン年やらン十年といった、バリバリのスキルを持った人材の揃っているM社の高いニーズに独力で応えていくには、甚だ無理があった。

 

なにせまだ、新しい事を始めてから1ヶ月なのだ。それでもなんとか、先に触れた初めての担当業務もなんとか仕上げ、ともかくも成果を出しつつあった。

 

少しずつ理解も進み、面白くはなっていた時期だから

 

(玉砕覚悟でNGを突きつけられるまでは、己の技術向上を目指して頑張ってみるか・・・  リスクが大きく高まる分だけ、最低ラインを割り込んでいた給与も当然、大幅にアップする事だろうし・・・)

 

と、プラスマイナス両面を推し量っていたのだった。おそらく「業務委託契約の監査指摘対応云々」については、初日のM社のMTGでも出ていたくらいだから、この時期にこうした契約の切り替えが起こりうる事は、少なくとも元請けのV社の営業のK氏には、解かりきっていた事だろう。

 

最初から

 

Ciscoルーターなどの実務経験がなくとも、知識とやる気があれば大丈夫」

 

などと、やけにハードルが低いのがどうにも解せなかったが、営業のK氏が三ヵ月後に契約形態が変わるという、この事を知っていたのであればなるほど、と納得がいくではないか。直ぐに自分と自社の手を離れるのだから、その間に「経験がないから」を理由にギャラを抑え込んで、利ザヤを稼ごうという魂胆だったのに違いない。

 

勿論、M社には「それなりに経験もある人物」という話をして、持ちかけた事だろう。なにせ自分は3ヶ月(実質、2ヶ月少々)を騙し果せれば、後はどうなろうと関係がないのだから。

 

相手がM社だという事を考えれば、これまでの他の例からしてどう考えても誰かが、かなり法外な利益を上げていたハズなのである。

 

所属会社の担当者が

 

「Kさんは

 

『M社からそういわれたから6ヶ月契約の3ヶ月になるけど、うちとしては手を引かざるを得ないよ。後は、そっちで勝手にやってくれ』

 

みたいな事をいわれましたよ・・・前に、にゃべさんが言ってたように、確かにいい加減な人だ・・・」

 

と言っていたことからも、この推測に狂いはないと思っている。

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