「ただ宅内機器に触らずに回線を復旧させる手は、ない事もないのですが・・・」
「さっき、ルータの配下にハブが幾つかあるとかいってたけど、通常マンションの場合はフロア毎とかでセグメントを分けてるよね?」
「確かに、そうなってますね」
「壊れているハブは、ウチが繋がっているセグメントだけ?」
「そこだけです。他は、総て正常に動作していますので今、回線に繋がらないのはお客様と、他に数人の方だけです・・・」
「てことは、他のセグメントに線(LANケーブル)を付け替えれば、いいだけだな・・・それってのは、可能なの?」
「今、考えられる復旧方法は、それだけですね。そして可能です・・・」
「じゃあ空きポートは、あるんだな?」
「空きは、あります・・・」
「他の人に構ってはいられんが、さりとて他の人のを外してまで付けてくれ、とはいえないからね。が、空きポートがあるなら、話は簡単じゃないの」
「ただ理論的には可能ですが、技術的に可能かどうかは一度確認してみないと、なんともいえないところがありまして・・・」
「技術的にもクソも、ただ別のハブのポートに線を差し替えるだけだから、アホでも30秒で終わりじゃん」
「いや・・・それが結構、複雑な構成になっているもので・・・」
説明を訊いたところでは、単純にルータに複数のハブがパラレルでぶら下っているのではなく、配線が結構入り組んでいるらしかった。初めて詳しい説明を訊いたが、話がややこしくなるため、その部分は割愛する。要するに別のハブに線を付け替えるのは、この場合に限ってはかなり面倒な作業になる、という事である。
「ともかく、今からやってみます。上手くいかない可能性もありますが・・・上手くいけば1時間から1時間半くらいで、繋がるようになるはずです」
「やってみないと、上手く行くか行かないかわからんと言うのでは、困るな。
1時間半も待って、結局ダメでしたでは済まされんが・・・」
と、ヒト睨みすると
「上手くいくはずなのです・・・というか、やって見せますよ。まあ、30~40分くらいで出来ると思います・・・」
やはり技術者だけに、その作業をやりたくて仕方がない風だったし、またいかにも自信ありげだった。が、1時間30分は優に経過しても、一向に繋がらないではないか。次第にイライラして来て、改めて管理会社に電話をしてみる事にした。
「という経過で、Xの方では壊れている宅内機器がオタクの所有物のため、交換する事も触る事も出来ないと言うばかりで一向に埒があかないんだけど、何とかして貰えないだろーか?
というか、ナントカしてもらわないと困るんだが・・・」
「え?
それは初耳です・・・私どもの機器が故障していると言う話は、今初めて訊きました・・・」
「Xでは、そっちに伝えて交渉中だと言っていたが・・・」
「いや、そういう事実はありませんが・・・少々お待ち下さい、確認をして参りますので・・・」
そして2,3分が経過した・・・
「今、確認いたしましたが、やはりXの方からはそういった話は、まったく来ておりませんでした。しかし、実際に私どもの機器が壊れていて、ご迷惑をおかけしているという事であれば、おっしゃる通り早急に交換の手配をいたす事に吝かではございません」
「我々は、常時接続の契約をしているのだからね。それに、ルータとかL3スイッチのような高価な上位機器ではなく、宅内のバカハブだから安いもんだし・・・そもそも、こっちの方ではそういった事情には関係なく、早いとこ交換してもらわん事には困るんだが・・・」
「承知いたしました・・・Xの方からはなんらかの障害が出て、技術者が物件のほうで作業をしている、と言う話は訊いておりましたが。それでは今から私の方からXに電話をして、弊社の機器が故障しているなら速やかに交換等の措置をするよう指示を出し、その後、再度改めてご報告をいたします」
「どーせ、あんなヘッポコ作業員では上手く行きっこないからさ・・・明日にでも、早いとこ交換するのが一番手っ取り早いと思うよ」
そうこうしている間に、いつの間にか時計の針は19時を大きく回っており、猛烈にビールが呑みたくなって来た。
(本当なら、もうとっくに直っていなきゃならんのに、作業が遅いんだから付き合いきれん)
と、枝豆を火にかけてビールをグビグビとやり始めたところで、インターホンが鳴った。
「ご迷惑をおかけいたしております・・・Xですが・・・」
( ´Д`)はぁ?
念のためネットに接続してみると、しっかりと繋がるではないか・・・
「今、繋がってるよ。直った?」
「繋がってますか?
では、少しお待ち下さい・・・」
というと、またしてもインターホンが鳴った。
「少しお部屋の中で、テストをお願いしたいのですが・・・」
「いいけど・・・今から、こっちへ来るってこと?」
「今、部屋の前に来ております」
と言う事でドアを開けると、見知らぬ男が立っていた・・・
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