2007/07/04

寝言(Mシリーズpart4)

 そのアッサリ具合が何より、K氏として恐らくは最初からの計画だったのだろう事を裏付けているではないか。M社に対しては、最低限3ヶ月の間はボロが出ないように担当者にフォローをしてもらう腹積もりだったが、生憎担当者が予測以上に忙しかったのだろう。ただ、どっちにしろV社は手を引く事が決まっているのだから、そうした事をいかに詮索したところで最早どうなるものでもない。問題は、直接の取引先であるG社である。

 

ところが信じ難い事に、そのG社からは

 

「給与等の諸条件は、当面据え置きで・・・」

 

というフザケタ話が出るに及び、怒りは頂点に達した。

 

(この分野は経験がないのだから、担当者からの教育含みで・・・)

 

との理由で、希望や相場を遥かに下回る条件も

 

(技術の修行になるのなら・・・)

 

と泣く泣く飲んで引き受けた大前提が、向こうの一方的都合で反故にされたのにも拘らず、責任だけ押し付けられてそれに見合う対価が払われないのでは、最早サギというしかない。

 

「そんなバカゲた話になど、付き合ってはいられん」

 

と、インチキ会社には引導を渡した。

 

相手は、甘い目算から

 

(はい、そうですか・・・)

 

と、M某の決定に唯々諾々と従うとでも思い込んでいたらしく、唖然としていたようだったが、そんな甘いものではないのだ。これまでは間に入っていたV社が、かなりの法外なマージンを稼いでいたことは明らかなのだから、G社の営業がV社よりは設定額をかなり下げたとしても、支払われる額が据え置きのままというのは、常識的に考えられないではないか。

 

という、至極当たり前の疑問をぶつけると

 

「折角、転がり込んできた、大手M社とのパイプを何とか確保したいので、当社としてはV社から受けていた額で設定しようと考えています」

 

と、あくまでも寝言を言い張った。

 

 「そんなバカゲタ話であれば、継続するつもりはない。この先、誰か交代要員を出す出さないは、こちらには関係ない事だが・・・」

 

と言った。

 

「M社からは

『条件によっては、契約しない事もありうる』

と脅されましたし。正直なところ、現状でにゃべさんの評価って、まだそんなに高くないのが実情だと思ってます。ここであまり強気に出て、折角のパイプそのものが消えてしまう最悪の展開だけは、うちとしては避けたい・・・」

 

「まだ1ヶ月だし、そんなに高く評価されるわけはないよ。M社の『条件によっては』というのは、全然桁が違っていると思うけど、御社の営業方針にワタクシが口を出すつもりはない。ただ折角出来たM社とのパイプを失いたくはない、という論理はワタクシにもわからないではないし、曲がりなりにもワタクシが開拓した道筋はあるのだから、今度はM社に評価されるような、バリバリのエンジニアを出したらいかがでしょう?

ワタクシは明日からでも、喜んで変わりますとも。果たしてそのような単価設定で、なおかつ成果を出さなければ対価が払われない可能性があるなどという、インチキ臭い条件でやろうという奇特な御仁がいるかどうかは与り知らぬところだが・・・」

 

その後、密かに見立てていた通り、弱小のG社がM社を納得させるようなエンジニアを用意する事は、やはり難しかったようだった。

 

「にゃべさん・・・例の件ですけど、来月以降も続ける気はないですか?」

 

と、再度誘いをかけて来た。実のところ元請けのV社がインチキ宣伝をしたせいか、ある程度経験があるのだろうと見られていた節のあった当初は、クライアントの要求を満たすのが難しく、自分でも納得のいくように仕事が捗らなかったのは事実だった。

 

 (元々、嘘をついて入ったわけではなく、こちらは事実を申し述べた上で採用されたのだ。だから、クライアントのニーズを十全に満たせない点は、仕方がないのだ)

 

と開き直っていたし、実際にやってみてそう簡単に成果の出せるような簡単な仕事ではない事も、既に痛感していた。そうこうしているうちに、契約上のトラブル(向こう側の瑕疵による)があり、既に契約を更新しない決断をしていた経緯は、先にも書いた通りである。

 

これ以上は契約を延長しないのだから、この期に及んで成果云々などはどうでもいいようなものだが、そこが技術者のサガというべきか

 

(このまま辞めるにしても、最後に一つくらいは相手があっと驚くような成果を残してから、去って行きたいものだ・・・)

 

と考えていた。

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